山下 大樹 (社会福祉法人 恩賜財団 静岡県済生会 静岡済生会総合病院)
山下 大樹
社会福祉法人 恩賜財団 静岡県済生会 静岡済生会総合病院
平成30年10月9日~平成30年11月2日
(医療法人医理会 柿添病院)

 今回、4週間に渡る平戸での研修を通して、地域医療の重要性や、そこに従事する医療者のあり方などを学ぶことが出来ました。
 第一に印象的だったのは、自分の専門領域に捕らわれない、幅広い種類の疾患を診なければならない、という事です。今回の研修だけでも、早期胃癌、胆石性胆嚢炎、Parkinson病による摂食嚥下障害、BPPV、リウマチ性多発筋痛症など、多彩な疾患を経験しました。普段の研修では、循環器内科であれば心血管疾患を、消化器外科であれば消化器の疾患を・・・といった具合に、自分の所属する科が対象とする疾患を中心に診察・治療していたことから、こうした総合診療のような医療を行う経験は新鮮でした。同時に、自分の専門科以外の領域の知識も積極的に取り入れていくことの大切さを痛感しました。実際、その週の担当者が作成した問題を解くことで知識を共有しようという「ドーナツカンファレンス」が毎週行われている他、院内・院外で多くの勉強会が催されており、それらに積極的に参加されている先生方の姿を通して、医師としてのあるべき姿勢を再認識せずにいられませんでした。
 また、地域に根差した医療を提供していくことの意義について考える機会にも恵まれました。例えば、平戸は医療機関の数が少ないということもあり、遠方から時間をかけて来院される方が少なくなく、中には離島から定期船を使って通院されている方もいらっしゃいます。そうした社会的・地理的背景のある人々に対していかに納得のできる医療を提供するか、遠方から来られている分だけそのハードルはより一層高いものであるように感じられ、その期待に応えられるだけの診察・治療をしていかなければならないという責務を感じました。訪問診療や離島への訪問リハビリテーションに同伴させて頂いた際には、患者さんの病歴だけでなく、どのような生活環境で暮らしているのか、家族からどのような支援が受けられているのか、何を目標に診察/リハビリテーションしているのか、などといったことに関しても、詳細に教えて頂くことが出来、多彩な視点から患者さんを見ていくことの大切さを学びました。特に訪問リハビリテーションの際には、手すりの位置やバスボードの設置などに関して、PTの方が患者さんやご家族と丁寧に相談し、どのような問題が潜んでいるのか把握した上で、解決策を提案されていたのが印象的でした。
 健診の業務で保育所や幼稚園を訪れる機会もありました。子供の診察は普段あまり経験していないことから緊張してしまう場面もありましたが、職員の方々が発達状況や生活状況などに関して気になる点を細かく教えて下さったこともあり、診察そのものはスムーズに終えることができました。一方で、職員の方々が子供達の情報を逐一丁寧に教えて下さるだけに、「保護者や先生方の期待に応えられるだけの診察をしなければ」という責任の重さをひしと感じました。
 その他には、柿添病院では毎朝、会社で勤務されている方や通学されている方の便宜を図って外来での外科処置(抜糸など)が行われているのですが、こうした患者さんのニーズに応える工夫は、特に医療機関へのアクセスが難しくなりがちなへき地において重宝されるのではないかと思われました。同時に、そのような形で、「地域の人々が望む医療を提供していく」という理念を実現していく方法の一端を垣間見ることができたことは、将来的に自分が医療を行っていく上で有用な経験となるのではないかと考えられました。
 一方で、平戸での生活そのものもまた、様々な思い出が残る、充実したものとなりました。
 病院前の商店街は昔ながらの木造の建物が並んでおり、街並みを歩いているだけでも、その伝統的な雰囲気を楽しむことが出来ました。寮のすぐ近くには「寺院と教会の見える風景」という、近くの高台にある聖フランシスコ・ザビエル教会と周辺の寺院、それに港の風景を見渡すことのできる観光スポットがあり、そこを通りかかる度、目の前に広がる光景に溜め息を漏らす程でした。そんな石畳の坂道を登って行き、ザビエル教会の裏手の住宅街に入ると、そこに突然、モダンな雰囲気を呈した一軒のカフェがひっそりと現れます。カフェ巡りが好きな自分にとって、そこで珈琲を飲みながらゆったりとした時の流れを感じるのが至福のひと時でした。
 休日には少し遠くまでドライブにも行きました。特に平戸島と生月島を結ぶ生月大橋は、海峡に堂々とそびえ立つその存在感に、毎回圧倒されてしまいました。生月島の北端に位置する大碆鼻灯台からは、晴れた日には遥か彼方まで広がる、青一面の水平線を一望することが出来ました。塩俵の断崖を眺めながら食べる(すぐ近くのお店で販売している)ブルーベリーテイストのアイスクリームは、それはそれは格別なものでした。
 平戸での思い出を長々と書いてしまいましたが、こうした体験を通じて感じたのは、地域医療のやりがいは、その土地が好きだからこそ生まれてくるのではないか、という事です。地域の一員として生活を営み、文化の中に溶け込んでいるからこそ、医療者としてその地域に貢献していくモチベーションが生まれてくる——自分は平戸での生活を通し、平戸という地域の良さを肌で感じることが出来ました。そして、そこで働く医師を始めとしたスタッフの姿を見、自分もまたそうした地域社会に貢献できる存在でありたい、という憧れのようなものを感じました。将来、自分が医療の世界でどのように働いていく考える時、今回の研修で得た経験を活かせれば良いと思います。
 末筆にはなりますが、柿添病院の先生方、メディカルスタッフの方々、一カ月という短い期間ではありましたが、お陰様で充実した研修を送ることができました。この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました。
山下大樹