山本 健太 (地方独立行政法人 神戸市民病院機構 神戸市立西神戸医療センター)
山本 健太
地方独立行政法人 神戸市民病院機構 神戸市立西神戸医療センター
令和元年7月16日~令和元年7月26日
(医療法人医理会 柿添病院)

 柿添病院での2週間を通して何よりも感じたものは、「地域医療のあたたかさ」です。医師の地域偏在や僻地での医療資源の不足といったテーマについて、今まで幾度となくニュースなどで聞いているせいか、正直なところ、当初は地域医療に対してなかなかポジティブな印象が湧かずにいました。しかし、この2週間で地域の一体感、そのあたたかさを肌で感じ、大きく考え方が変わりました。
 まず、この研修を通して私は「家庭医」という言葉を学びました。疾病臓器や患者の性別、年齢などの専門性にとらわれずに、患者、地域住民の健康問題を広く担当する医療分野と定義されます。昨今、医療分野はますます細分化され、それぞれの分野において専門性が高まってきておりますが、地域医療においては、ジェネラリストであることが強く求められていると改めて気づかされました。実際、一般の外来診療では多様な主訴の患者さんを相手にしなければならず、手技的な面でも専門分野外の処置もこなしていけなければいけない局面も多々ありました。地域医療における医師の役割の難しさ、厳しさを痛感しました。
 そんな中で、研修を通して一番印象に残ったのは、ある患者さん(仮名:Aさん)の訪問診療に行った時のことでした。Aさんは平戸市内で漁師として60歳ぐらいまで仕事一筋でしたが、25年前のある日にふらつきを自覚し、当時全く縁のなかった柿添病院に搬送されました。精査の後に、胃癌と診断され、手術を施行する方針となりました。当時、大学病院や高度医療機関などへの搬送も考えられましたが、その方の居住地など社会的な背景を踏まえ、手術するなら柿添病院で施行する方針となりました。無事手術は成功、その後問題なく経過していましたが、数年前に脳梗塞を発症し、リハビリ目的に在宅加療を続けられています。Aさんのお話の中で、「柿添病院の先生だからこそ信頼できました。僕自身頑固な人間で、なかなか自分のことを誰かに任せることはできなかったけれど、あの頃に説明してくれた先生の、僕に任せてくれないかと言われて、安心して任せられたんです。数年前に脳梗塞を起こして色々大変だったけれど、柿添の先生にならもう一度任せたいと思って頼りました。その後もずっと家族ぐるみでお世話になりっぱなしです。先生もそういうお医者さんになってくださいね。」という言葉をいただき、深く感銘を受けました。医師は疾患だけを見るものではなく、その家族背景など社会的な背景も考慮し、全人的な医療を実現するべきだという、医の理想を体現していると思います。地域医療の醍醐味はここにあるのではないかとも感じました。
 たった2週間という短い研修ではありましたが、非常に密度の濃い時間を過ごすことができました。お忙しい中、わずかな時間を縫ってまでご指導いただいた柿添病院の先生方、初めて来た平戸という土地で、右も左もわからない私に色々と優しくお話ししていただいたスタッフの皆様、楽しく有意義な数日間を一緒に過ごした同期研修医に心より謝辞を送りたいと思います。ありがとうございました。
山本健太