山本 奈央子 (独立行政法人 労働者健康安全機構 横浜労災病院)
山本 奈央子
独立行政法人 労働者健康安全機構 横浜労災病院
令和元年12月2日~令和元年12月27日
(社会医療法人青洲会 青洲会病院)

 大雨が降り強風が吹き荒れる中、平戸桟橋のさらに向こう側にまっすぐに落ちた雷を見た師走の初日から早いもので一月が経過しました。嵐が過ぎ去った後の田平の海は穏やかで、特に夕暮れ時には日々忘れがたい光景を見せてくれています。
 今回の地域医療研修は私にとって2回目の九州地方への旅になりました。たくさんの自然の中に人が生きているその光景は私の故郷にもどことなく似ていて、しかしながら日々新しいことを教えてくれる、不思議な場所でした。
 青洲会病院では外来や訪問看護、離島研修やデイケア、デイサービスと普段研修している病院ではほとんど関わることのない部門へたくさん参加させていただきました。その中で強く感じたことは、私が今まで学んでいたことは人と疾病とがともに歩む長い長い道のりの、ほんのわずかな部分でしかないということです。
 今まで急性期の治療が落ち着き、病院を退院した後の患者さんの生活というものを実際に見る機会はほとんどありませんでした。しかし実際に入院前と全く同じ状態で家へと変える患者さんはほぼいません。皆何かしらの後遺症、影響を抱えもともとの状態よりも不安定な状態で退院となることを余儀なくされます。その時に、医療は何ができるのか、疾患ではなくその人個人を見たときに必要なものは何か、急性期だけでなく患者さんの人生の様々な段階をみる青洲会病院の先生方と患者さんのかかわり方を拝見するたびに、自分が今までいかに疾患のことしか考えていなかったかを痛感させられました。
 また実際に患者さんが必要としている医療を届けるためには、医師だけでなくコメディカルの力がいかに重要かということも学びました。後遺症で半身が動かず、すぐに拘縮を起こしてしまう人、食事が十分に取れない人、手すりがなく家の外に出られない人、様々な場面で他職種の方がどんなことを考えられているかを直接教えていただき、いかにそれが難しいかを学ばせていただくことができました。
 命ある限り人は必ず弱り、いずれ最期を迎えます。その時は等しく訪れますが、それは決して医学の敗北を意味しません。不安を減らし、安らぎと喜びのある時間を少しでも長くもっていただくためにはどのような関わり方ができるのか、答えのないこの問いを生涯考え続けられる医師になろうと思いました。
 最後になりますが1カ月という短い時間ではありましたがたくさんのことを教えてくださった青洲会病院の皆様方、道に迷っていた私に声をかけてくださる優しい地元の方々、たくさんの感動を与えてくれた平戸の自然、すべてに感謝したいと思います。本当にありがとうございました。
山本奈央子