T.M (独立行政法人国立病院機構 京都医療センター)
T.M
独立行政法人国立病院機構 京都医療センター
令和元年7月1日~令和元年7月26日
(医療法人医理会 柿添病院)

 4週間と短い間ですが、大変お世話になりました。
 地域医療というと、私は「Dr.コトー診療所」というドラマを想起します。このドラマではある島の海辺にたたずむ診療所で新任の医師が、当初は反発を受けながらも、徐々にその医療の確かさや人柄が認められ、信頼関係を築きながら地域住民と暮らしてゆく姿を描いたものでした。
 私が研修させていただいた柿添病院も長崎県平戸島にあり、病院からは海が望め、地域住民に厚く信頼される病院です。
 ドラマと違う点はもちろん多々あります。現代の日本の医療機関に期待されるMR・CTなどといった検査機器は一通り揃えられています。入院となれば人工呼吸器管理や人工透析も可能です。看護師その他スタッフも一流です。このように整った環境だからこそ取り扱う疾患も幅広く、悪性腫瘍から生活習慣病まで多岐に渡っていました。私の研修初日にはS状結腸癌に対する腹腔鏡下S状結腸切除術が施行され、私の“地域医療研修”のイメージとの違いに驚いたことが昨日のことのように思い出されます。
 一方で日々の診療については、強く地域に根差したものでありました。先生方は疾患についてはもちろん、その患者さんの家族構成・職業・経済状況その他さまざまな背景を熟知されたうえで適切な医療を提供する様子が大変印象的でした。おくすり一つ選ぶにしても、内服回数を少なくするために合剤にしてみたり、手間はかかるけれども少しでも薬価の低いものを選択したりといった心遣いが随所に見られました。また柿添病院には“つけかえ”とよばれる外来患者向けの包交が朝8時からあるのですが、これは通勤・通学前に処置ができるように朝の早い時間帯に設定されているとのことで、患者さんファーストの思いやりを感じました。つけかえに関して、私たち研修医の目線から申せば、普段形成外科など専門医に任せてしまう創傷治癒の過程がみられることは大変勉強になりました。患者さんにとっても、毎日来るのは少し面倒かもしれませんが、「ガーゼがはがれてしまったけど」とか「少し血がにじんでいる」といったちょっとした疑問や不安が解消される点がメリットと感じられますし、なにより毎日医師の診察を受けられるという安心感があるだろうと考えられます。 
 また地域の医療を担う病院の医療者のシゴトの場は院内にとどまりません。私も4週間という短い期間に様々な医療の現場を見ることができました。訪問・通所リハビリテーション、訪問診療、留置所健診、5歳児・乳児健診です。 
 例えば訪問リハでは度島で生活される高齢者のお宅を訪問しました。度島は平戸港から40分ほどフェリーに乗って向かいます。度島は海がとても美しいところでしたが、平坦な道は少なく、家の中も昔の日本の民家すなわち土間があったり段差の多いつくりになっています。一見高齢者にとっては暮らしにくい環境に思われますが、住民にとっては住み慣れた我が家であり、離れることは難しい。この状況にあって、明確な目標を患者さん本人やご家族との話し合いで設定し、体の機能を維持していくことはもちろん、介護保険を利用して手すりをつけたりといった支援を行うことで、持続可能な暮らしをリードしていく様子が印象的でした。現在急性期病院に勤めている私にとっては、退院・転院後の患者さんの生活への配慮について気付かされる思いがしました。またリハビリ中の会話で患者さんの訴えをくみ取り、医師へフィードバックしたり、その他医療・福祉につなげていく仕組みに感銘を受けました。
 今回の研修を通して感じたのは、地域とよばれるコミュニティにはそれぞれの住民に、みんなで創りあげていく“カルテ”が存在するということです。個人情報保護が声高に叫ばれる現代において、日々の暮らしをご近所で共有することには賛否あるとは思います。しかし病院で治療が必要な疾患というものは、ひとが生活をおくるなかでの一側面でしかないと感じました。医療が提供できるサービスは、あくまで幸せに生きていくためのお手伝い・サポート程度なのではないかと考えます。
 今後働いていくうえで大事なことは、そのひとの生活を理解し、どのような医療を提供すればこの方は暮らしやすいかを模索し、提案・実行しようという謙虚な姿勢ではないかと思い至りました。
 このような考え方が正しいかどうかは、正直わかりません。ただ、今回のように思考のきっかけを得られたことを大変うれしく思います。
 この度お世話になった柿添病院、平戸市のみなさまに重ねて厚く御礼申し上げます。
 本当にありがとうございました。
T.M