寺田 圭吾 (東京大学医学部附属病院)
寺田 圭吾
東京大学医学部附属病院
令和元年6月1日~令和元年6月30日
(平戸市立生月病院)

 平戸島の山間を越えて辿り着いた生月島、その小高い丘の上にぽつりと立つ生月病院に到着したとき、病院から綺麗に見える海や浮かぶ島々の美しさに心が和みました。一方で周囲に建物が殆どなく、草木が広がる光景を見て1ヶ月間やっていけるか不安がよぎりました。
 高齢化率が40%を越え、島民5000人を超える生月島の医療を一手に担う生月病院では、患者さんの大半は年配の方々で、生活習慣病を中心に、慢性心不全・腎不全、神経変性疾患など、多岐にわたる疾患や状態の患者さんを満遍なく診ていました。大学病院の専門領域に特化した治療とは異なり、普段の生活に困らず上手く付き合っていけるような病気のコントロールを行い、寝たきりにならず自分の足を使って生活できる時期を長く保てるようにリハビリや生活サポートについても検討するなど、より生活に密着した医療を間近にして、疾患だけでなく患者さん全体を診る全人的医療の在り方を実態として捉えることができました。特に先生方が患者さんの名前を見ただけで、抱える疾患から家族背景や生活支援状況など、その人の置かれている状況を把握されていたことに驚きました。
 実際に私自身、外来で患者さんを診たり、特定健診や乳幼児健診の診察から判定までを担当したり、急性冠症候群疑いの方を心臓カテーテル検査のできる病院へ搬送するのに同乗したり、と大学病院での研修ではなかなか経験できない貴重な機会を与えていただき、患者さんの発する僅かなサインやデータの見落としに注意して、時には緊急性の判断を要する状況にも遭遇して、責任の重大さに大変身が引き締まる思いでした。また訪問診療や特養の回診を通して、生活の場に赴くことで普段の生活の状況をより鮮明に捉えながら診療するスタイルは今後高齢化がますます進む地域医療の中で重みが増すだろうと感じました。その他にも中学校保健委員会や介護認定審査会にも参加させていただき、地域社会の中で医師に求められる役割の幅広さやその重要性を実感しました。
 研修の中で特に印象に残ったのは90歳を超えても元気で過ごされている方々や脳卒中や骨折で入院していた方々が自立した生活を送っている様子で、改めて患者さんのニーズや状況に合わせて生活に即した医療を行う重要性を認識しました。平戸・生月の人口分布は日本社会を先取りしているとのお話も伺い、数十年後には全国的に生月島のような患者・疾患の層になることが想定されます。日々の忙しさの中でつい病気にばかり意識が集中してしまいがちですが、今後は患者さん全体を捉え、より真摯に患者さんと向き合って医療を行っていこうと思います。
 最後になりましたが、都会の喧騒を離れて心安らぎ、平戸の美味しい食事を満喫し、新鮮な経験を色々とさせていただいて大変充実した1ヶ月間を送ることができました。温かく受け入れて下さった生月病院の先生方、看護師や調理師の皆様、生月の地域の皆様はじめ、今回の研修でお世話になりましたすべての皆様方のおかげです。心より感謝申し上げます。
寺田圭吾