谷藤 秀一 (東京大学医学部附属病院)
谷藤 秀一
東京大学医学部附属病院
令和2年1月6日~令和2年1月31日
(社会医療法人青洲会 青洲会病院)

 1か月間、青洲会病院で研修をさせていただきました。普段は大学病院で研修をしていることもあり、対象疾患や診療形態、医療資源などあらゆる側面で大学病院との役割の違いを感じる1か月でした。外来での研修では上気道炎や生活習慣病、脳梗塞や整形疾患、そして時期的にインフルエンザやノロウイルスなどの感染症も多く見受けられました。特に高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病のコントロールは患者数も多く非常に重要であるにも関わらず、生活習慣病をメインで考え診療を行ったことは意外と無かったことに気づかされました。これらは虚血性心疾患や脳血管障害などの著明なリスクファクターであり、ガイドラインを見直しながら最良の診療について考えられたことは非常に勉強になりました。また入院患者も肺炎や脳血管障害、腰椎圧迫骨折、大腿骨頚部・転子部骨折など高齢者のcommon diseaseが多い印象で、各医師が自身の専門に関わらず、包括的に患者を診る能力、プライマリ・ケアにおける高い診療能力が必要であると痛感しました。また慢性的な医師不足の背景があるなかで、看護師はじめコメディカルの方々の役割が非常に大きいと感じ、多職種の方々に支えられての医療であるいうことを再認識した1か月でもありました。
 また、今回の研修で最も印象に残ったことは、訪問診療や訪問看護で体験した地域の方々の生活の実態です。平戸市では高齢化が非常に進行しており、島嶼地域においては一層深刻な問題となっています。長崎の地形も影響しているのか、非常に高低差があり、車両も入れないような入り組んだ道の先に住まれている方もおり、生活環境も各々の経済状況によって様々でした。高齢独居の方も多く、食材や生活用品を購入しに行くのも困難と思われる方も多数いらっしゃいました。また島嶼地域における診療所では、検査項目はさらに限られており、それでいて緊急搬送には船のチャーターやドクターヘリを要請しなければならず、搬送のハードルは都市部に比べ著しく高いと考えられました。このような地域において実際に医療者が住民を訪問する意義、そして問診と身体診察から的確に現状を把握する能力の重要性について深く考える良い機会となりました。自宅で生活されているALSなど神経変性疾患の方々にもお会いする機会もありました。大学病院の脳神経内科では、主に診断のための検査入院や急性期治療が多く、地域の病院や診療所に紹介する側であることが多かったのですが、その先の地域での生活や医療介入の現状について実際に経験できたことで、患者や家族の方々の今後をより具体的にイメージしながら診断や急性期治療を行えるのではないかと考えています。
 平戸では研修の合間に美味しい魚をいただいたり、また捕鯨や貿易の歴史、隠れキリシタンを含むこの地域の宗教的背景など、多くの歴史や文化に触れることができ、また平戸を愛する方々の温かさに触れることもできました。1か月間という短い期間ではありましたが、非常に充実した研修を送ることができました。青洲会病院の方々、地域研修を支えてくださった全てのスタッフの方々に厚く御礼申し上げます。1か月間誠にありがとうございました。
谷藤秀一