髙原 佳央里 (一般財団法人 神戸市地域医療振興財団 西神戸医療センター)
髙原 佳央里
一般財団法人 神戸市地域医療振興財団 西神戸医療センター
平成28年7月19日~平成28年7月29日
(医療法人医理会 柿添病院)

 7月18日、平戸初上陸。平戸の第一印象は『海と山が近く、こじんまりとした街並み』であった。緑豊かでゆったりとした時間が流れている様子は、祖父母の住む生まれ故郷にどこか似ているような気がして、なつかしい気分になった。
 初日は早速、訪問診療で平戸を縦断した。車で40分以上離れた場所にある特別養護老人ホームでの診察をお手伝いさせていただいた。ここでは施設職員の方々との連携が重要になる。いつもと様子がちがう、ということに耳を傾け、調子がすぐれない方をピックアップし病院受診を適切に勧めなければならない。ご高齢の方が多く、病状が悪化してからの受診では手遅れになることもあり、的確な判断能力が必要となってくるように思えた。一方で、「調子かわりないね。また来ますね」と、患者さんと医療スタッフとの良好なコミュニケーションも垣間見ることができた。
 県北保健所での研修には、青洲会病院から2名・柿添病院から2名の研修医が参加した。保健所には、医師・看護師だけでなく、獣医師・保健師・理学療法士など、様々な職業の方が従事しておられることにまず驚いた。保健所の主な役割に関して各部署の先生方より講義を受け、幅広い業務内容があることを理解した。医療に従事するにあたり、保健所の働きを知ることは必要不可欠であるが、今回の研修を機に関心を深めて、さらに学んでいく必要があると感じた。その日は年に一度の防護服着脱訓練も行われていたため、同席させていただいた。保健所職員の方々だけでなく、地域の消防士さんも出席しており、多職種が連携していることを学んだ。非常時に対しての備えを、常日頃から怠らないことで、私たち住民が安心安全に生活することができるのだということも実感した。
 訪問リハでは度島を訪れた。青い海に囲まれたのどかな島であった。リハビリ利用の方がほとんど入院加療中であったため、その日は1件のお宅に訪問した。フェリーで往復1時間30分、島での滞在時間は1時間15分。『なんと贅沢な訪問リハビリだ』と思ったが、「問題はお金や時間じゃない。必要とする方がいるなら向かわなければならない」という信念で従事されているPTさんのお話を伺い、つまらないことを考えてしまった愚かな気持ちを反省した。
 中野診療所では、通所リハと訪問診療へ同行させていただいた。通所リハは、診療所に併設されたセンターへ利用者さんが集まり、PTさん・OTさんによるリハビリにあわせて、筋力トレーニングや沐浴、全体での体操などを1日かけて行うものであった。交通の便や距離が問題となり通院することが難しい方にとっては、バスによる送迎・定期的なリハビリはADL維持向上のために非常に有用であると感じた。訪問診療に関しては、広範囲の地域を担当しているが、通所リハと同様にご自身での通院が難しい方を主に訪れることが多い印象であった。訪問診療や通所リハ・訪問リハは、すべての方が公平に医療を受けることができるような工夫であり、これからも必要とされることが多いのではないかと思う。
 日常診療においては、入院患者さんの診察や住民健康診断を主に担当させていただいた。健診業務は初めてであったため、始めは戸惑いを覚えた。しかし説明の仕方や問診の取り方など工夫をしながら診察を行っていくうちに住民の方とのコミュニケーションも徐々にスムーズになり、地域における健診業務の重要性や位置づけを体感することができた。入院患者さんは親しみをもって接してくださる方が多かったことから、患者さんと医療従事者との距離感が近く、良好なコミュニケーションが大切であることも学んだ。
 『勉強のために都市部に出向いたけど、やっぱり平戸がいいと思って帰ってきました』という、ある看護師さんのお話が印象的であった。患者さん・医療者ともに、生まれ育った地域でかかりつけの病院・医療スタッフと接することで、安心感を得ることができるのだろうと思う。地域医療が担う役割は、ただ医療を提供するだけではなくこのようなところにもあるのではないかと感じることができた。
 研修期間中に院内の講習会を受ける機会があったのだが、その中で印象的であったのが『知っている と 理解している とはちがう』というフレーズだ。
 この2週間で地域医療を十分に「理解した」と言うには足りないかもしれない。しかし、地域医療について目を向け、今後の診療を通じてより理解を深めていくことができるようなきっかけとなる研修期間となったことは間違いないだろう。
 あっという間に過ぎ去った2週間。平戸地域の皆様のお役に立つどころか、むしろ医療に従事していくうえで大切なことをたくさん学ばせていただいた。
 お忙しい中ご指導くださった、柿添病院の先生方・スタッフの皆様、患者様をはじめとする平戸市住民の皆様に感謝しながら、気持ちを新たに明日から診療に臨みたいと思う。
髙原佳央里