田所 賢人 (東京大学医学部附属病院)
田所 賢人
東京大学医学部附属病院
平成29年6月1日~平成29年6月30日
(医療法人医理会 柿添病院)

 地域研修は是非とも長崎で。そのようにしようと研修医が始まるころから私は決めていた。というのも、もともと大学生活を6年間長崎で過ごし、また、平戸には一度観光に来ていたこともあり、なんとなくどういった場所か知っていたからだ。とはいっても、慣れない場所で仕事をするという不安や、知ってはいたもののアクセスが悪い点などからどことなく、期待よりも不安が強くバスに揺られていた。「よし、じゃあ飲みに行こうか」この言葉、久々に聞く九州のイントネーションを投げかけられ、私の杞憂は一気に吹き飛んだ。 この瞬間に久々に長崎に帰ってきたと私は感じた。
 研修の日々は外科系の病院ということもあり、忙しくも充実した日々を過ごすことができたと思う。朝は、8時前から患者さんが創部のガーゼ交換にやってくる。その付け替えを行うのだが、今までそういった経験はなく大学では決して行うことのない業務を行う。そのあとは、リハビリに通う患者さんを、リハビリを行っていいかどうかを判断するため、外来を行う。もちろん、これまでに外来の経験などない。初めは戸惑いカルテを必死に読んで患者さんに色々と問診をしてリハビリに送り出した。外来とはこれほど不安になりながらも、待っている人のためにスピードも必要であることを経験できた。また、健診に来る人たちへの説明、診察を経験でき1次スクリーニングの判断などなかなか研修病院ではできない体験ができた。
 地域医療として訪問診療についても同行させて頂いた。訪問診療のイメージとしては、在宅で療養されている方の訪問を行い、時には看取りを行っているイメージであったが、現状はそうでもないことを知った。80代、90代の方を60代70代の方が介護を行っているという、いわゆる老々介護のような現状であり看取るまで在宅で行うのは非常に厳しい状況であり、なにかしら体調を崩すと入院になってしまったり、施設に入所しているというのが現状のようだった。また、全国的に高齢化が進んでいるが、地域ではより顕著に進んでおり、それに加え近くに病院はなく、車でしか移動手段がなく、そして高齢のため自分で運転できないなどといった、病院まで自宅から通うことが難しい方がたくさんいることがわかった。そんな方たちの体調を確認したり、薬を届けたりすることが訪問診療の役目となっているのが現状であった。国として、療養病床から在宅へと方針を変更していっているさなか、地域ではそれがより難しく、都市部と地域では一律の制度ではなくそれぞれにあわせた制度が必要であると感じた。
 健診や保健所訪問にも参加した。健診では、主に保育園に出向き幼児たちの診察を行った。小児科をローテートしない私にとって小児診察はしたこともなく非常にハードルの高いものであった。ただ、現場に行くとそうもいっておられず、次々と来る子供たちをひたすら診察した。何人診察したか覚えていないほどに。健診は短い時間で人数を見なければならないが、その中にも、収縮期雑音を聴取したり、なかなか診察をさせてくれない子がいたりと、ハラハラドキドキではあるが、冷静に診察していかなくてはならないのだと感じた。その他にも留置所の健診や同行はできなかったが、小学校、中学校などの健診もあり、地域に暮らす様々な人々を幅広くみていることを実感した。
 この一か月で何度も感じたことではあるが、柿添病院の常勤の先生方の診断力や技術力には驚かされっぱなしの一か月であった。問診や聴診、レントゲン1枚から様々診断し、内視鏡などの検査もこなし、その上で手術をしなければならない症例などは自分たちで麻酔をかけ手術を行い退院まで見届ける。また、リハビリが必要な場合はリハビリに通ってもらう。といった一連の医療の流れを一つの施設でこなしていることに驚きを感じ、また、それぞれ専門が異なっているが、何でもできる医師がそろっていることにも驚きを感じた。地域だからといって医療の遅れがあるどころか、患者さんにとっては知っている先生が全部をみてくれるという安心感があるのではないかと思われた。
 地域研修を終えた同期の研修医が6ヵ月分の研修内容だったと話していたように非常に密度が高く、実りある研修生活を送ることができたと感じた。忙しいからと放置されることもなく、ビビりながらも安心して様々な手技や診察をできたのも先生方の見守りがあったからだと感じた。都市部の医療と地域の医療について比べるとどちらも一長一短あり決して地域医療が遅れているなどといったことはないように感じた。久々の長崎、平戸。初めのながさき県北地域医療教育コンソーシアムでの自己紹介で楽しみたいと言ったが、その通りになったと思う。研修としては様々なことを見るだけでなくある程度任され、実践できた。また観光の面では、当初より行こうと計画していた人津久の海に行くことができたし、ほとんど毎日温泉にも入ることができた。一緒にお世話になっている同期と3人で少し時期の早い花火をしたりと研修医も半分終わっているのに青春の1ページを刻んだりと当初思い描いていた以上に楽しむことができた。これも、柿添病院でお世話にならなければ叶わないものであったし、時に指導し、時に飲みに行ったりしてくださる先生方の存在と、一緒に楽しんでくれる出身も研修先も異なる同期の存在が今回の研修を実りあるものとしてくれたと感じ、感謝の気持ちとともに今後の研修生活はもちろん、医師としての人生に生かしていきたいと強く思った。
田所賢人