杉山 健太 (社会福祉法人 恩賜財団 静岡県済生会 静岡済生会総合病院)
杉山 健太
社会福祉法人 恩賜財団 静岡県済生会 静岡済生会総合病院
平成31年1月21日~平成31年2月15日
(医療法人医理会 柿添病院)

 平成最後の1月寒空の下、私は不安と少しの希望を抱きつつ平戸に降り立ちました。そもそも故郷である静岡から1000㎞以上はなれた地で1カ月以上暮らすということ自体初めてで、更に新しい仕事場や新しい上司と全てが未知の領域で研修するとなると1年前の4月に社会人になったばかりの時と同じような気持ちでした。もちろん不安の方が大きかったですが、一方で1年間研修した病院を一旦離れて、気分転換に一味違った研修を経験してみるのも悪くないかなと思っている自分も少しだけいました。ただ到着日に先に研修を開始していた2年目の研修医の先生や若手の先生が食事に誘ってくれた際は、なんとなく大丈夫なんじゃないかという漠然とした希望も持ち始めていました。
 研修が始まってからは様々な経験をさせて頂きました。私の今までの患者さんのイメージは苦しそうにしている、元気がない高齢者というのが主でした。ただ今回の地域研修での外来診察や訪問診療を通して、多くの患者さんが病院に来て顔なじみの主治医の先生と会うのを楽しみにしているという点に非常に感銘を受けました。もちろん苦しんでいる患者さんを助けるのも医療の一部ですが、定期的に外来受診で様子を見て変化を注意深く観察し、苦しまないように事前に予防するというのも医療の大事な側面であると感じました。もちろんどこの病院でも同じようなことは行われていると思いますが、特に今回研修させていただいた柿添病院では、そういったことを強く感じました。
 また長崎ならではの離島での訪問リハビリ研修も特に印象に残っています。1日かけて5人の訪問リハを見学させて頂きましたが、中にはかなり元気な方もおられました。しかし、この様な患者さんのADLが落ちていないか、訪れて様子を見ること自体に意義があるとPTの方がおしゃっていたのは印象に残りました。今回の地域研修ではこのような予防医療に重きを置いており、私が研修している病院とはまた少し異なった医療で非常に今後の医師としての姿勢として大事な経験をさせて頂きました。
 私が平戸に来る前に描いていた地域医療のイメージは、採血の結果もすぐには出ず、CTなどの精密検査もすぐには行えないものというものでした。ただ実際に経験してみるとCTはもちろんのこと、MRIまでいつでも撮影可能なことに驚きました。ただ24時間いつでもオーダーすればすぐに撮影可能なわけではなく、30分ほど待つ必要があるというのは救急では大きなポイントだと思います。ただその30分をなにもしないで過ごすのか、知識と経験から病態を予測し事前に鑑別疾患や対応を行っておくのでは雲泥の差があると思います。検査が遅れる分、そのロスを自分の実力で取り返していかないといけないという点で自分はまだまだ未熟だなと感じました。すぐに検査が行えない環境だからこそ、より頭を働かせて考えることが必要となるため、そういった点で少しばかり成長できたように感じます。
 また地域医療では専門科に関わらず、common diseaseはある程度自分で見なければいけないという点も刺激的でした。当直をしている整形外科医が脳梗塞を見たり、外科医が呼吸不全の管理をしたりと、自分の専門範囲を超えて診療・治療しなければいけない点は地域医療の難しさを示していると感じました。一方で、そのような体制であるからこそ、より広い範囲の知識をカバーしなければいかず、必然的に医師としてレベルアップできるのではないかと思います。医師である以上、自分の専門分野しか診れないというのは今後許されず、ある程度広い範囲の知識をカバーしなければいけないと感じました。
 どの病院でも地域に根差した医療というのも目標に行っていると思いますが、市中の総合病院はその特性から医師の転勤等が多く、また患者さんの入れ替わりも激しくなかなか地域に根差した医療というものは現実的ではないと思います。柿添病院のように長年にわたって主治医の先生と関係性を保つことができる医療こそが本当の地域に根差した医療であると感じました。そういった医療によって、病気になるのを未然に防ぎ、病気になったら早期に発見することができ、必要であれば総合病院等に転院するといった医療連携がスムーズに行われていくのだと感じました。
 今回の地域研修で得たものは私が研修を行っている市中の中核を担う総合病院では決して体験できないものばかりでした。特に自分の専門以外も診るという点は大病院に行けば行くほど経験する機会が少なくなっていくと思います。医師として自分の専門以外も最低限治療できる医師になるというのが、私の目標でもあり今後医師として経験を積んでいくに当たって、総合病院だけでなく平戸で研修させて頂いたような地域の病院で経験を積むことも必要であると感じました。今後の診療でも今回の研修で得た経験を生かしていこうと思います。
 最後に今回の研修を行うに当たって、この場を借りて私を受け入れてくださった柿添病院の先生方、スタッフの皆様に心からお礼を申し上げたいと思います。ありがとうございました。
杉山健太