佐藤 拓也 (社会福祉法人 恩賜財団済生会支部 静岡県済生会 静岡済生会総合病院)
佐藤 拓也
社会福祉法人 恩賜財団済生会支部 静岡県済生会 静岡済生会総合病院
平成26年5月7日~平成26年5月30日
(医療法人医理会 柿添病院)

 この度、一ヶ月間という短い間でしたが地域研修という形で大変お世話になりました。
 私は今回の地域研修で、患者を入院時から退院時まで主治医・担当医として包括的に受け持つこと、医療資源が限られた中で質を保って医療を供給するためにとられている方策を学ぶこと、普段暮らしているところとは異なる環境で暮らしている人の生活リズムを知り、医療につなげること、を学ぶことを目標としておりました。
 そして一ヶ月の間に大腿骨転子部骨折、化学療法の副作用による嘔気、術後癒着性イレウス、腰椎圧迫骨折、急性虫垂炎、骨盤内炎症性疾患、嘔吐下痢症、SLE、前立腺がん骨転移とそれによる貧血、神経調節性失神、COPDの急性増悪と非常に多彩な疾患を病棟で管理させていただくことができました。
 一ヶ月間ではありますが、様々な疾患・分野の症例を担当させていただいたことで、研修の1年間では経験できなかった症例、病態、手順を経験することができ、そのためにこれまでのどの一ヶ月よりも勉強することができ、最も濃い時間が過ごせたように思います。それも、地域医療ではそのマンパワーの規模からひとりでマルチな分野を扱わなければならないことの表れであったと思いました。
 外来ではやはり、Stanford A型の大動脈解離の症例をドクターヘリまで搬送したのが最も印象的でした。普段、静岡の病院ではドクターヘリを迎えに行くことはしばしばあるもののドクターヘリで送るのは初めてであり、また病院の屋上ではなく川内峠まで救急車で搬送してそこでヘリとランデブーというのは新鮮でした。さらにはいつ急変してもおかしくはない患者の横で救急車に揺られる緊張感は今後忘れることはないと思います。さらに、そのドクターヘリの要請から受け渡しまでの流れは、他の過疎化の進む地域でも近いものが敷かれていると考えられ今後のためにも勉強になりました。また、平戸の近くにある度島、的山大島から救急要請を行った場合水上タクシーで平戸まで搬送されるというのは離島医療ならではであり、普段の救急外来のように安易に有事時再診と支持できない難しさも感じることができました。
 他にも外来では農業や漁業を営んでいる方、小さい集落で自動車も入れないようなところから通っている方など本当にバラエティに富んだ方が来ており、それぞれの仕事や生活リズムに合わせて外来の時間、季節を選ばなければならなかったり、問診に気をつけなければならなかったりする教科書には載らないような医療の現実も見せていただきました。
 病棟業務、外来業務以外にも多くのことを経験することができました。
 中野診療所での訪問診療に同行した折にはこの地での人々の本当の生活を覗き見ることができたことが印象的でした。
 また、健診特に学校健診にも多く参加させていただきました。異常を見落とさないようにするのはもちろんですが、それ以上に健診を受ける人と短時間で信頼関係を築くことの難しさを学びました。小学生や乳幼児の場合、相手の目線に合わせること、相手の言葉を使うこと、相手に受け入れられる仕草をすることの重要性が高く、初めは気恥かしさからなかなかできませんでしたが、この5月の最後にはなんとか形にはできたように思います。何より病棟に重症患者や治療方針が悩ましい患者がいる中、子供たちの屈託のない笑顔と無邪気な行動に非常に癒されました。
 院内で行われたリハビリ研修、歯科研修も普段は近いものの関わる機会の少ない分野であったため大変勉強になりました。リハビリの医療保険の適用とその期間、また医師によるカルテ記載の必要性といった社会面も、将来変形性膝関節症を防ぐために内側広筋を鍛えるのが有用といった非常に実用的なことまでお話をしていただきました。歯科ではまずは自身のブラッシング指導を受けた後、親知らずの磨き方を教えていただき、その後患者の口腔ケアの重要性とその方法も示してくださいました。ここで得られた知識は病棟だけでも自分だけでなく、両親・祖父母にも広めていきたいと思います。
 もう一つ特筆すべきなのがながさき県北地域医療教育コンソーシアムの勉強会でした。私は学生時代に英国の認知症政策について調べ、まとめたことがあり、その中で英国の家庭医の制度には非常に興味がありました。そのため、私が地域研修でいたこの一ヶ月間という間にこの平戸に英国のGPをしている方がいらっしゃったのは大変幸運でありました。そして英国でのGPの働きや生活、病院との連携といった話を食事とともにでき、日本でも家庭医の浸透と病診連携の普及を願う思いを強くしました。
 このように、そしてこれ以外にも非常に貴重な経験を積むことができました。しかもいかにも地域医療ならではといった事から、純粋に医学的なものまで幅が広かったのは意外でした。また、日々の診療の中でも地域医療に必要な他分野に跨る知識・技術を持った先生方には畏敬の念を抱かざるを得ませんでした。皆様の表には出ない、「この地域を医学的に支える」という責任感は我々研修医も見習わなければならないと痛感しました。
 この平戸の地で、柿添病院で得た経験、知識、感動はしっかりと私の心に刻まれ、医師としての姿勢を変えるものとなったことは間違いありません。 最後になりましたが、1ヶ月間至らぬ点も多かったのにも関わらず常に優しく、明るく、楽しくご指導いただきました指導医の先生方(一人一人お名前を申し上げたいのはやまやまですが・・・)には感謝してもしきれない思いです。皆さまへの思いを胸に静岡へ戻りますが、またいつか平戸を訪れたいと思っております。
 本当に有難うございました。
佐藤卓也