佐藤 健朗 (独立行政法人 労働者健康福祉機構 横浜労災病院)
佐藤 健朗
独立行政法人 労働者健康福祉機構 横浜労災病院
平成26年8月4日~平成26年8月29日
(平戸市立生月病院)

 「この島では、医者は偉いのです」
外来終わりに島のある医師は、若干の皮肉と、自己への警鐘の意味を含ませながらこの台詞を私に投げかけた。
 もちろん、かつての時代のパターナリズムを説いているわけではない。島民の高齢化とそれに伴う患者教育の困難さ、真の意味でのプライマリーケアの実践の困難さとともに、島の医者と島民との堅固な信頼関係を暗に示している言葉であると感じた。
 外来をしていると、高齢者が圧倒的に多い。また、家族構成を聞いてみると、それまた高齢の子供と住んでいるか、老夫婦で住んでいるか、独居かである。病気の説明を患者とその家族にしても中々理解を得られないこともしばしばであった。

 しかしそれでも、明らかに患者とその家族は我々に全幅の信頼を置いているように思えた。また医師も、患者の生活背景まで隅々を理解していた。まるで、島民という家族を診療しているかのようであった。だから、患者は自分で自分の病気のことを100%理解していなくとも、あまり心配しないのであろう。しかし、ここには大きな落とし穴もあるような気がした。それは、それこそ、かつてのパターナリズムに陥りかねないということである。だからこそ、そして僻地であるからこそ、患者教育が大切であり、家族及び地域という枠組みの中で責任を持って診療するプライマリーケアという概念が重要なのであろう。
 都市部の大病院の医療との大きな違いは、患者の生活背景まで理解している医師と患者との堅固な信頼関係に基づいた医療がなされていることである。しかし、そのために医師は、パターナリズムに陥らないように常に自己に警鐘をならしながらその責任を全うしていた。
 初期対応、病棟管理など医学的(科学的)なことは都市部とはなんら変わりなかった。しかし、島の医師たちはその両肩に島民の信頼と期待を背負い責任を全うしようとしている、正に「偉い医者」であると感じた。私も生涯をかけて、そういう医者になりたいと切に思った。

 最後に、短い間でしたが、多くを与えてくださった病院関係者の方々、島民の皆様方、そしてここで出会いまた全国に散って行く生涯の友たちに、心から感謝致します。 人生で忘れることのない充実したひと月であった。
佐藤健朗