大熊 彩子 (東京大学医学部附属病院)
大熊 彩子
東京大学医学部附属病院
平成29年2月1日~平成29年3月23日
(社会医療法人青洲会 青洲会病院)

 海を目の前に臨む青洲会病院で、2ヶ月間の研修をさせていただきました。とても楽しくためになる日々をありがとうございました。

 派遣病院決定後に病院のホームページを拝見したところ、一番目立つところに「病院の前では釣りが楽しめます」と書いてあり、どんな病院に行くことになるんだろう…運転免許を持っていない私は、夕食を手に入れるには病院の前で魚を釣るしかないのでは…と半分冗談、半分本気で心配していました。しかし結果としては、そのようなことは全くの杞憂でした。まず荷物を置かせていただいた医局の机には「平戸市はなぜ、ふるさと納税で日本一になったのか」という本が置いてあり、その後2ヶ月の実習期間中には先生方や病院職員の方々、平戸にいる他の病院の研修医とともに、その本の内容通りの、平戸の豊富な水産資源・農作物の美味しさについて実地での学びを十分に深めることができました。

 勿論、地域実習としても、非常に学ぶところが多かったです。私は東京以外で生活をしたことがなかったのですが、実際に地方で生活することで、地方の交通や情報伝達、買い物の様子などについて身をもって実感することができました。実習前には単に「地方には医療機関が足りない」「医療従事者が少ない」というイメージしかなかったのですが、実習を通じて、過疎の地域では、地域あたりの症例数自体も都会に比較して少ない、ということに改めて気がつきました。それよりも、受診までに医療者もしくは患者の移動時間がかかること、利用できる医療機関の選択肢が少ないことの方が大きな制約だと思いました。そのため、「あれもこれも」ではなく、「地域の人々は、何を一番に地元の医療に求めているのか」の見極めが重要だと感じるようになりました。病院外での研修では訪問看護や訪問リハビリテーション、ヘルパー、ケアマネージャーなどの方々の活躍が地域の人々の生活を支えていることを改めて実感しました。地域の方々が実質的に必要としているのは「医療」ではなく、「介護」である、ということと、現在の地域での「医療」は「医療行為」自体ではなく、「お医者さんが見てくれた」という事実に対する「周囲の、世話をする人を含めた人の安心」を提供することが大部分を占めているということを感じました。

 病院内での実習では、青洲会病院は療養病床や老人健康施設、リハビリテーション施設も持っているため、日々の検診や当直といった業務の他にも、少しずつADLが低下した方のケアを現在どのようにしているか、ということに対して包括的に学びを深めることができました。現在のリソースで奮闘されている現場の方々の尽力に深く敬意を払うとともに、ADLが低下し、易感染性になっていく高齢者の方々にどこまで積極的な医療を提供するか、ということは今後の人々の価値観の変化とともに変わっていく点かもしれないと思います。

 今後、私は公衆衛生(精神保健)の方向に歩みを進めたいと思っており、その意味でもこの2ヶ月間は非常に貴重な経験をさせて頂きました。青洲会病院の先生方、職員の方々、そして地域医療コンソーシアムの皆様本当にありがとうございました。
大熊彩子