大石 紗也乃 (東京大学医学部附属病院)
大石 紗也乃
東京大学医学部附属病院
令和元年9月1日~令和元年9月30日
(平戸市立生月病院)

 生月での医療は私が経験してきた大学病院や都内の中核病院での医療とは異なります。病院にはそれぞれ機能があり日本中の医療を支えていますが、私はこれまで高度急性期病院で十分すぎる医療資源、環境の中での医療を中心に見てきました。一方で生月病院は、行える検査処置は限られています。それでも地域病院という特性上、救急車の受け入れも頻繁に行います。問診、身体診察から得られる情報を最大限に引き出し、本当に必要な検査から判断する医師としての臨床能力、経験値が必要であると痛感しました。
 4週間の研修を通して、生月病院は4人の医師で24時間365日島民の医療を支えているということを実感しました。これは想像以上に大変なことで、先生方は総合内科医でありながら、実質的には外科、救急、小児科診療も行います。専門、専門外関係なく、どんな分野、重症度の患者に対しても生月病院でできる最良の医療を行い、専門病院への搬送が必要か否かを判断する、日々強いプレッシャーがかかりますし、体力的にも容易なことではありません。
 そんな中でも、日々の外来ではよく笑い声が聞こえ、先生に会いに来たよ、最近畑の方はどうかね、じいさんは元気にしとるかと楽しげな会話が繰り広げられます。外来に同席する私に患者さんたちが話してくれたエピドードが印象に残っています。「緑内障発作で運ばれたとき先生が助けてくれて、おかげさまで失明せずに今元気に暮らしてるんです」、「船の事故で座礁してもうダメかと思ったけれど、すぐ処置して大きい病院に運んでもらって命があるんですよ」、「自分の親が逝くとき最期まで往診でよう見てくれましたよ」と。私が研修でいられたのはたった1か月間でしたが、患者さんの沢山のお話から、何十年も島の医療を支えてきたこと、またそこから生まれる先生方への信頼感、安心感のようなものを肌で感じました。
 生月島にとって、無くてはならない島での医療、そして5000人もの島民を支える医師の姿を間近で見られたことはとても貴重な経験になりました。地域研修に携わってくださった先生方、すべての病院スタッフの方に感謝申し上げます。
大石紗也乃