小河 孝輔 (一般財団法人 神戸市地域医療振興財団 西神戸医療センター)
小河 孝輔
一般財団法人 神戸市地域医療振興財団 西神戸医療センター
平成28年7月4日~平成28年7月15日
(医療法人医理会 柿添病院)

 神戸から平戸へ向かう新幹線の中ではまだ安心していました。というのも、遠方に来ても周りの景色はまだビルも多く人もにぎやかだったからです。地域研修といっても、周囲とはまだ連絡も取れているし、交通手段も多くある地であると思いました。しかし、佐世保からバスの乗り換え平戸桟橋に来るまでの道中で、民家も少なくなり長い長い山道を抜けているときに「周囲の街から隔絶された町なのではないか」と思うようになりました。
 実際に平戸桟橋につくと意外と栄えているなと思いました。しかし、月曜からの外来を通して、島中から長い時間をかけて受診する患者さんは交通手段もバスや船などが多く、なかなか島を出て行動するのが難しい方が多いことに気が付きました。やはり初めに感じた通り平戸の外へ通院することは難しく、そのため、急性期~慢性期まで幅広く診療を行う柿添病院はかなり地域医療の基盤を担っていると感じました。
 2週間の研修ではさまざまなことを見学、実習させていただきました。朝のつけかえは初めて見た処置風景でした。恥ずかしながら、自分が救急外来等で創傷処置を行った患者さんがその後、どのような経過を辿るのか全く知りませんでした。果たして自分の行った処置が本当に適切であったのかも分からぬまま診療をこなしている日々でしたが、つけかえで毎日同じ患者さんの創部を見て処置することで、間違ったことをすると傷が悪くなる怖さを感じました。患者さんにとっても毎日の通院は負担であり、最良の処置を行えるよう勉強しようと思いました。
 また、大島の訪問リハでは急な傾斜に建てられた民家が多く、そのため家の外に出かけて買い物や病院に行くには坂道を登らないといけない現実を実際に歩いてみて体感しました。さらに島の住民は高齢者の方が多く、70歳でも若い方というのを聞いて驚きました。実際に訪問させていただいた方は3人中2人が90歳以上で自力では病院には行けない方であり、訪問リハや訪問診療なしではそのような方々の医療を行うことは出来ないと思いました。訪問診療にはわだつみの里、中野診療所でも同行させていただきました。わだつみの里は施設入所中の方の健康を診察するだけでなく、患者さんのご家族とも話し合い、どのように看取っていくのかを一人一人に寄り添える形で決める機会もあり機械的な診療でない密着した医療に感銘を受けました。中野診療所では前半はリハビリ、後半は訪問診療につかせていただきました。リハビリで特に感じたことは、病院のリハビリは心機能や筋力、関節可動域の改善を目指しているという印象でした。しかし、診療所でのリハビリはそれぞれの障害や得意不得意を把握し、個人が自宅で少しでも自立した生活をできるようにというのを目標にしてリハビリを計画し実行していました。なかでも驚いたのは、30人以上来られている利用者全員に一人ずつ個別のリハビリを行う時間を設けているところです。スタッフの人数も多くないのに少しの時間でも個人を相手に行えるようにと考えて努力されているそうです。こなせばいいと思って仕事をしているとそこまですることはできないので、スタッフ全員が利用者のことを真剣に考えて接している様子が伝わってきました。すべての施設の皆様が非常に思いやりをもって接しているのが印象に残りました。
 柿添病院は2週間で僕がみさせてもらっただけでも外来、入院、手術だけでなく、透析、訪問、リハビリといった地域密着の医療を提供していました。医師の数も多くないのに、これだけの仕事をこなしているのは、絶え間なく働いている医師だけでなく、病院全体を把握し動いている看護師の方々の存在も大きいと思いました。大病院だと看護師は自分の持ち場が限られているので、その場の把握に関しては十分にできていても、病院の他の病棟や外来で何が起きているのかを把握している人は少ないと思います。しかし、柿添の看護師の方々はみなさんしっかりと分かっていらっしゃりました。大病院だとなかなか難しいことなのかもしてませんが、少しでも自分の担当以外のことを把握するのは見えないところで病院の質を向上させるのではないかと思いました。
 最後に、実習を通してお忙しい中でも熱心に指導してくださった先生方、なにしていいかわからないとき優しく教えてくださった看護師の皆さまをはじめ実習を通して関わったすべてのスタッフの皆様、本当にありがとうございました。
小河孝輔