野口 祐 (地方独立行政法人 神戸市民病院機構 神戸市立西神戸医療センター)
野口 祐
地方独立行政法人 神戸市民病院機構 神戸市立西神戸医療センター
令和元年6月17日~令和元年6月28日
(医療法人医理会 柿添病院)

 私が初めて平戸の地にたどり着いた際は、平戸は日本伝統的な城下町の街並みが残りつつ新しく整備されており、魅力的な土地だと感じました。その土地の医療の中心を担う、柿添病院で2週間研修させていただき、さまざまなカリキュラムを通して普段馴染みのない医療現場や、地域医療の役割を学習することができました。
 研修内容としては、受け持ち患者を持って日々の経過を診察する一般的な病棟管理や、手術、検査、救急車対応といった普段行うような研修から、幼稚園や学校、成人の健診を行ったり、訪問診療・訪問リハビリに同伴させていただいたり、歯科研修、保健所研修したりこれまで経験のなかった研修まで幅広くありました。
 幼稚園での健診では身体的な異常のチェックだけでなく、会話の中で発達に異常がないかをチェックする小児独特の診察のポイントを学習しました。成人の健診では、相手に余計な健康上の心配をかけないような声のかけ方であったり、逆に喫煙・食生活といった本人にとっては改善することが疎ましく思われがちなところをどのように指導していくか、話の進め方を学びました。健診では日常にみられる症状を相談される方が多く、そうした方にどういった疾患の可能性があり、医療機関の受診のタイミングなどを説明するなど、普段救急外来で行っている診療とはまた違った見方を実践的に学びました。健診というスクリーニングの場で緊張感を持ちながらとてもいい経験ができたと思います。
 訪問リハビリでは理学療法士の方と度島という人口700人程度の離島に渡り、患者さんの自宅に伺いリハビリを行うところを見学させていただきました。離島では公共交通機関が発達していないため、ADL改善が生活に不可欠です。その点リハビリは大きな役割を担っていると思いました。実際はリハビリだけでなく、患者さんの日常生活の変化も伺い、必要に応じてケアマネージャーや主治医に相談して自宅整備や診察の依頼をしていました。離島で特に一人暮らしである方の場合は、訪問リハビリの機会を通して少しでも人の目を入れて症状の変化や環境変化に対応していくという役割もあるそうです。リハビリに限らず、訪問看護・訪問診療・ケアマネージャーによる訪問を含めチームで患者さんを支えていくことが大事であると再認識できました。
 歯科研修では、高齢者における口腔ケアの重要性を学習しました。学生時代から考えても歯科領域から医学を勉強したことがなかったためどの知識もとても新鮮で、患者さんの口腔ケアを実際にしてみると成果が目に見えて実感でき、重要性を体感できました。こうしたケアが誤嚥性肺炎の予防や糖尿病の予防になると伺い、歯科診療が入院管理をより良いものにしていくには大事な分野であることを認識できました。
 保健所研修では保健所長といった行政に勤める医師のお話を伺うことができました。行政では一般病院で行う医療とは違い、地域の感染症や公衆衛生を管理するという、患者個人を診るというより地域全体を診るといった壮大さがあり、臨床医とはまた異なった魅力を感じました。
 最も感銘を受けたことは、やはり地域医療に携わる医師の役割です。柿添病院では常勤医師の専門分野は消化器系がメインですが、病院の役割としては24時間救急対応を受け入れており、平戸市の医療の中心的な役割を担っているため幅広い領域を診なければいけません。先生方はこれらに対し、適切な処置・対応をされており、まさにジェネラリストとして診療されていました。専門分野外の処置は経験が重要と思われますので、私としても今研修医として幅広く経験させてもらえる間に、自分の進む領域以外の処置も真摯に向き合っていきたいと感じました。
 また、柿添病院の先生方は平戸のどこに行っても有名で、とても慕われていました。診察待ちの待合で患者さんとお話した際にも、柿添先生に診てもらいたくて来た、と声を高らかにおっしゃっていました。地域に根付く医師は、手技や知識だけではなく人徳も必要だと実感した瞬間でした。実際に先生方の診察を見学させていただいた際にも、いつも患者さんの変化に気を付け、どんな小さな訴えも親身になって聞かれており、こうした患者さんに寄り添った姿勢を私のこれからの医療にも取り入れていきたいと思いました。
 2週間という短い期間で、普段あまり触れない領域を学習できましたし、これまで元の病院で経験してきた診察、処置、麻酔などの手技の総復習もでき、とても充実した研修となりました。勉強だけでなく、病院の方とテニスしにいったり飲み会に行ったりなど交流の機会もあり、とても楽しかったです。最後になりましたが、診療の忙しい中、研修させてくださった柿添病院の方々、本当にありがとうございました。
野口 祐