西嶋 佑太郎 (独立行政法人 国立病院機構 京都医療センター)
西嶋 佑太郎
独立行政法人 国立病院機構 京都医療センター
平成30年2月5日~平成30年3月2日
(医療法人医理会 柿添病院)

 2月初め、全国的な豪雪のなか平戸に到着したとき、平戸の街にもうっすらと雪が積もっていました。日中の気温もあまり氷点下から脱しない寒さが、慣れない土地・環境での研修生活がはじまる心細さをいっそう強いものにしていました。しかし1ヶ月間の研修はいざ始まってみると寒さにかかずらう暇なく、言葉も違えばカルテシステム、医療文化もことごとく異なる環境の中で、研修に励むうちに過ぎ去っていきました。その研修の中で感じたことを3点述べます。
 まずは診療の幅の広さについて。研修では小児から高齢者まで、急性期から慢性期まで、軽症から重症まで、入院から在宅まで、様々な方と接する機会がありました。平戸には地図で見ても限られた数の病院しかないため、疾患頻度があまり修飾されることなく受診層に反映されているのを体感できました。普段研修している病院では紹介を受けるなどしてある程度選択された層の患者さんの診療することが多かったため、今回はどちらかというと健康に近い方の診療を経験することを自分なりの目標としていました。そしてそれは十分に達成されたと思います。ただ実際平時の患者さんの診療を完璧に行うとなると、内科に限らず幅広い医学的知識が必要となり、柿添病院の先生方がそつなくこなしている姿を見て、全身を診る視点の重要さと自分の至らなさを痛感しました。
 次に地域のかかえる限界について。これには地理的な制約と専門家の不足があると思います。柿添病院には疾患や重症度に関わりなく患者さんが病院に来ます。中にはこの病院では対応できないような症例(t-PAや穿頭術が必要なもの)もあり、転院搬送に2度同行しました。転院とはいえ緊急性のある状態の方を佐世保市まで1時間弱かけて運ぶので、その時間のロスがどうしてもぬぐえない限界と感じました。また上述の診療の幅広さとも関連しますが、在籍している医師の専門分野はすべてが常時そろっているわけではありません。非常勤医師が担当する分野や担当医師のいない分野は、専門外ながらも対応を要する状態がどうしても発生します。それがすなわち総合的な診療ということにもなるのですが、常勤医師がいる病院に比べるとどうしても医療水準で劣る部分があるのではないかと思ってしまいます。病院診療所の連携で解消できる部分も大いにありますが、やはりそこにも限界を感じました。多くの分野で専門家レベルの対応を行うことは少数の医師にとって限界のあることであり、これは総合診療とは別の次元の問題と思います。限られた医療資源でこの限界を解消する方法を研修の中では思いつかず、医療の均霑化の難しさに直面しました。
 最後に訪問診療・リハビリテーションについて。研修中に離島や山間の集落で通院が困難な方や特別養護老人ホームへの訪問診療やリハビリテーションに同行させていただく機会がありました。病院の診察室や病室といった均質化された空間での診療・リハビリとは異なり、患者さんの生活の場に赴いて行うことで、生活環境に潜む障害や実際のADLが観察できるため、医療を施す上での大切な情報が得やすいという実感がありました。もちろん携行する備品に限界はあるため、訪問したその場で行えることは限られているとは感じましたが、それ以上の利点のある医療の形態に思えました。今回同行したことで、在宅や施設にいる方々に対して、その人の生活の快適さやその人の尊厳を大切にするために医師として自分にどういった介入ができるだろうかと考えるきっかけになり、そうしたことを考えていくことに自分の心性が合っていると感じました。
 業務になれてきたころには季節も変わって、春一番が吹き、春の嵐といわれる天気の中で研修が終了します。研修医を終えて専門家への第一歩を踏み出してくなかで、この柿添病院で得た経験を活かしていこうと思います。指導してくださった医師、看護師、療法士、スタッフの方々、1ヶ月間ありがとうございました。
西嶋佑太郎