丹生 真貴子 (一般財団法人 神戸市地域医療振興財団 西神戸医療センター)
丹生 真貴子
一般財団法人 神戸市地域医療振興財団 西神戸医療センター
平成28年6月6日~平成28年6月17日
(医療法人医理会 柿添病院)

【実習施設】
柿添病院は平戸に位置する病院であり、地域密着型病院として機能し、地域の初期救急機能だけでなく人工透析機能を有している。5階立ての病床111床のケアミックス型で、1階が手術室、2階が外来、3階が急性治療型の病床、4階が療養型の病床となっている。常勤の医師は5人でその他は大学をはじめとした非常勤の医師によって支えられている。

【実習内容】
あんのん:地域密着型介護老人福祉施設、短期入所生活介護。家庭的な雰囲気を大切にし、入居者が安全に穏やかに自立した生活を過ごせる。週に1回の定期訪問診を経験した。
わだつみの里:特別養護老人ホーム。あんのんと同じで週に1回の定期訪問診療があり、上記同様経験した。
通所リハビリ毎快;対象:要支援〜要介護状態の幅広い患者さんに対してデイケアとは異なる個別リハに特化した短時間通所リハ、健康チェック、物理療法、集団レク。個別リハと自主トレが中心であり、効率よく自主的にリハビリができる。
中野診療所(訪問診療):定期的な通院が困難な患者さんを対象に自宅や施設へ定期的に訪問し、診察し必要があれば治療を行う。訪問診察に同行し、見学させていただいた。
度島(訪問リハビリ):離島で何らかの理由でリハビリ通院が困難な患者さんを対象に、訪問し、決められた時間内でリハビリを行う。
高校検診:長崎県猶興館高等学校の高等部2年生の健康診断を行った。
手術:腹腔鏡下虫垂摘出術や開腹胃全摘手術を経験した。

【感想】
2週間の研修を通して、まず地域医療に対するネガティブなイメージがなくなったこと。地域医療は専門性が低く、最先端医療を行えない印象があったが、地域医療機関病院と大学病院などの病院では根本的に異なる役割を担っている。地域医療に期待される幅広い疾患に対応てきる総合力も高度な医療であり、欧米でいうfamily doctorおよび本邦においてもやっと重要視されてきたプライマリーケア医療は全ての医師に必要であると実感した。
次にこの研修および平戸での2週間で自分や親の老後について深く考える切欠となった。あんのんやわだつみの里、中野診療所の訪問診療を経験し、実際の介護の現場は老老介護や独居が多いこと。働きながらの介護は訪問介護などを用いても非常に介護者に負担が大きいということ。今後高齢化社会が進み、医療費が増大し、自分も老いていく中で、どのように老後を過ごすかは計画していかねばならないと実感した。

【考察】
1. 地域医療の現状
実際自分は専門医志望で正直に言うと地域医療にはあまり関心がなかったが、2週間の実習を通して患者さんや先生方との交流したことにより、地域医療に関する認識が大きく変わった。 今では将来一定の期間地域医療に従事することは、専門医であっても持つことが望ましい総合的な診察能力の向上につながるだけでなく、患者や他の医療スタッフとより高密度の交流をすることで人間的にも大きく成長するいい機会になると考えている。

2.介護保険と地域医療
今回の研修で、地域医療と介護保険制度は切っても切れない関係にあると実感したため、再度介護保険制度の内容を復習した。介護保険は40 歳以上の国民は全員加入しており、支給を受けられるのは、65歳以上(第1号被保険者)で、 40~65歳(第2号被保険者)では、特定疾病(※)のみ介護保険の認定対象となる。要介護(1~5)の認定を受けると、施設に入るための費用を支給されるが、利用者はその1割の自己負担と、食費の負担を必要とする。自立、要支援と認定された場合は、施設サービスを受けることができない。また、介護保険で介護福祉施設に入所してから、病状が悪化し病院に入院しても、また病状が改善した時には、入院して3ヶ月以内であれば、無条件に元の施設に戻ることができる。 平戸市の2013年における要支援・要介護の人数は2623人であり、平戸市の人口は31,559人(2016 年)であるため、人口の8%程度が介護対象者ということである。今後も増加していくであろう介護認定者に対応するためにも、介護保険について医師がしっかりと理解し、介護の必要性を見極め、対応していなければならないと考えた。
 ※特定疾病:筋萎縮性側索硬化症、脊髄小脳変性症、パーキンソン病、シャイ・ドレガー症候群や脳血管障害(脳出血、脳梗塞、くも膜下出血なと)、骨折を伴う骨粗鬆症、アルツハイマー病、後縦靭帯骨化症、脊柱管狭窄症、変形性関節症、慢性関節リウマチ、閉塞性動脈硬化症、慢性閉塞性肺疾患など。



3. 在宅医療と死
高齢者が亡くなる場所は、以前は自宅死亡がほとんどであったが、現在では病院死亡が8割を超えている。実際に厚生労働省の調査において2010年での自宅死亡は20万人以下となっている。厚生労働省は自宅およびその他の医療機関以外での死亡を推奨しているが、実際に在宅死亡を希望していても最終的には看取りが出来ずに救急車を呼んでしまったり、病院に入院したりと最終的には変更する場合が現状では多い。こうした高齢者の心身の特性を踏まえた保健・医療のサービスの拡充が地域医療では求められているのであると感じた。



【謝辞】
地域医療研修として充実した研修プログラムを企画してくださり、2週間にわたり貴重なお時間をさいて指導していただいた柿添病院の先生方、コメディカルのスタッフの方々には非常にお世話になりました。初めての九州での生活でしたが、非常に楽しく過ごさせていただきました。ありがとうございました。

【参考文献】
WAM NET
厚生労働省在宅医療の最近の動向 - 厚生労働省
丹生真貴子