中嶋 悟 (東京大学医学部附属病院)
中嶋 悟
東京大学医学部附属病院
令和2年2月1日~令和2年2月29日
(平戸市立生月病院)

 生月病院にて一ヶ月間の研修が終わりました。今回の研修では日常の外来診療に加え、訪問診療や保険衛生指導、介護施設への往診、介護認定審査会といった、包括ケアシステムを構成する様々な制度の中での医師の役割というものを実際に赴くことで体感できました。地域医療といいますと私が医学部に入学した頃に総合診療科が創設され、また現在では新専門医プログラムの名の下に内科は内科専門医の取得が必須となり、これからは多くの医師は単独で地域の医療を担える能力が必須となってきます。その意味において、内科に進む私自身にとって今回の研修は非常に示唆的である研修でした。
 医師の能力においては学問的にヒトを診ること、社会的に人間を診ること、その両方が必要とされると言いますが、地域医療にはそのエッセンスが詰まっていると感じました。
 ヒトを診ることについてですが、地域においては医療資源に限りがあり専門家へのコンサルトや必要な検査を行えない場面も多々あります。つまり医療アクセス=自分のみという状況は都会とは大きく異なり、医師の診察能力がダイレクトに患者さんのQOLに結びつくその責任感は非常に大きいものであると感じました。普段の外来を見学したり実際に行うことで問診や身体所見、簡単な手技といった当たり前のことが本当に大切であることは再確認できました。また、生月病院でも月に何度か専門の先生の外来がありますが、その先生方の問診や身体診察からは学ぶことも非常に多かったです。
 検査やコンサルトに関して都会のように検査や専門家の受診をなんでもかんでも行えばいいかといえば、答えはノーであり、コンビニ受診が風土となっている日本ではそのような患者行動が医療費を膨れさせている原因とも考えられます。そこで必要になってくるのは人間を診る能力です。生月病院では患者さんとの距離が非常に近く、外来の担当の先生方は表情からも健康状態の些細な変動を読み取ることができ、既往や内服についても問い合わせすることなく把握できます。また、コメディカルとのコミュニケーションも大切であり看護師さんなどは大体患者さんの社会背景を把握していますので、患者さんの見えざるストレスや環境の推察や家庭環境を踏まえた医療の考察を行うことが出来ました。また、なにより医師―患者間の信頼関係が強く、その関係の中で診療を行うことでお互いに納得のいった医療を行うことができ、過度の心配からくる無駄な医療を防ぐことにはまずはこのような土壌が必要なのだと感じました。
 このように普段の大学病院においては感じられないような医療の側面に触れられ、医療人として今後成長する方向性により具体性を持たせてもらったような研修でした。関わっていただいた全ての方に感謝し申し上げます。一ヶ月間ありがとうございました。
中嶋 悟