長田 駿一 (一般財団法人 神戸市地域医療振興財団 西神戸医療センター)
長田 駿一
一般財団法人 神戸市地域医療振興財団 西神戸医療センター
平成28年6月20日~平成28年7月1日
(医療法人医理会 柿添病院)

【実習施設】
 柿添病院は平戸の中心に位置する地域密着型の病院であり、一般病棟52床、療養病棟59床合わせて111床を有する平戸における急性期医療の基幹病院である。「都市部と変わらぬ医療を地域の人々へ」をモットーに急性期医療に重点を置きながらも、訪問診療、訪問リハビリテーションなどを通して、在宅医療や回復期リハビリにも力を入れ、平戸市民全体の健康を守っている。常勤医5名を中心に、非常勤医や研修医、看護師、理学療法士、ソーシャルワーカーなど様々な人間が職種間の垣根を超え、協力し合って地域医療に貢献している。

【実習内容・感想】
 2週間という短い間であったが、きっちりとスケジュールを組んでいただいたおかげで、濃密な研修を受けることが出来た。それも研修担当の柿添三郎先生・由美子先生をはじめ、非常に多くの病院職員の皆様のご尽力のおかげであることは言うまでもなく、まずはじめに感謝の意を表したいと思う。
 2週間のうちに、自院(西神戸医療センター)では経験できない研修を数多くさせて頂いたが、印象深かったものを中心に述べていきたいと思う。
 一番興味深かったのは死体検案であった。2週間のうちに2件経験させて頂いたが、1件目は死後1週間ほど経過した症例であった。ご遺体は匂いもきつく、虫がたくさんまとわりついており、皮膚は黒に変色していた。私としては非常にショッキングな光景であったが、そのような状態であっても、一人の人間として敬意をもって丁寧に診察する院長先生の姿に深く感銘を受けた。2件目は当直帯に経験させて頂いた。その際はAi(Autopsy imaging)を使用して、死因を探ったのであるが、今まで小説やドラマでしか知らなかった世界が目の前に広がっていて、非常に新鮮であった。Aiに関しては、一般に知られるガイドラインというものが存在せず、画像所見に関しては個々の経験によるところが大きいことを知り、今後ますます発展していく余地があるように感じた。
 中野診療所では訪問診療にも参加させて頂いた。神戸市医師会の地域医療研修でも、何度か同行させて頂いたことがあったのだが、平戸での訪問診療とは意味合いが異なるように感じた。神戸では、寝たきりや人工呼吸器管理の患者が多く、とても通院できるような状態でない患者が対象であった。平戸では重症患者の訪問診療もあったが、病院までの交通手段がないため、病院まで通院することができない、一人暮らしの高齢者に訪問診療が介入しているケースが非常に多く見られた。昨今、訪問診療にも効率化が求められている時代の中で、一人一人丁寧に訪問し、診察する先生の姿は、地域ならではと感じるとともに、先生と患者との間の絆の深さを垣間見ることができた。
 健診に携わるのも今回が初めてであった。いかに丁寧にわかりやすい言葉で説明するか、という医師の基本となることを改めて考えさせられた。また保育所健診や5歳児健診も参加させて頂いた。普段は救急外来でぐったりした子供を診ることが多いので、元気な子供相手に診察するのは新鮮であった。途中で泣き出す子や騒ぐ子、おとなしく言うことを聞いてくれる子など様々なタイプがあり、面白さとともに難しさを感じた。
 今までは主に印象深かった院外研修に関して述べさせていただいたが、同様に院内研修も充実したものであった。7、8人程度の急性期から慢性期まで様々な患者さんを担当させて頂き、それぞれの管理を学んだ。患者さんは優しい方ばかりで、コミュニケーションも取りやすく、平戸の土地柄の良さを感じた。腹腔鏡手術ではカメラを持たせてもらったり、腹部超音波検査や上部消化管内視鏡なども経験させて頂いた。院長先生の「常に患者に騙される(痛みやしびれといった患者の訴えを一つ一つ傾聴する)」外来診療では、画像検査ばかりに頼るのではなく、触診や聴診など実際の患者さんを「診る」ことの重要さを痛感し、今後の診療に活かさなければならないと感じた。
 病院研修だけではなく、病院外での生活も充実していた。平戸に到着して早々、連日の雨のため、なかなか外出することが困難で平戸や長崎を満喫することは厳しいかと不安であったが、休日は晴れてくれたので、佐世保や長崎まで足を運び、観光することができた。同時期に柿添病院に来ていた同期の研修医とも仲良くさせて頂き、車で温泉に行ったり、佐世保バーガーや海鮮料理、平戸牛、トルコライスを食したり、街並みを観光したりと楽しませて頂いた。病院の先生方も数多く食事会や飲み会を開いて下さり、親睦を深めさせていただくことができた。
 柿添病院での研修に早々に溶け込むことができたのは、病院職員の皆様に気さくに声をかけて頂いたおかげであった。少しでも分からない、迷っていることがあると、こちらが質問する前に察知してくれ、色々ご指導してくださった。困っている人を助けるという、医療従事者としての、ひいては人間としての基本を改めて見つめなおすきっかけとなったと共に、柿添病院の人の温かみに深く感銘を受けた。今回の研修を糧に、医療従事者としてはもちろんのこと、人間的に成長していく必要があると感じた。
長田駿一