永野 渓舟 (東京大学医学部附属病院)
永野 渓舟
東京大学医学部附属病院
平成30年1月4日~平成30年1月29日
(医療法人医理会 柿添病院)

 今回2018年1月の1カ月間、柿添病院にて地域研修をさせていただき、非常に貴重な経験を得ることができました。当初の地域医療の印象としては、限られた医療資源の中上手く診療を行っていくというものでした。実際に研修をしてみると、想像以上に高度な医療を実践し、また手術も定期的に行われており驚かされました。地域の病院では医師の絶対数、患者数に対する相対的な人手が少なく、また必ずしも全ての専門家の医師が揃っているわけではありません。必然的に幅広い知識、手技技術が必要とされ、大学病院とは違うスキルを身につけていると感じました。
 大学病院で研修をしていると、ローテート中のその診療科の疾患を診ることがほとんどであり、一度に様々な診療科疾患を診ることはありませんでした。今回病棟で担当した患者は大腸癌から多発褥瘡まで多岐にわたり、病棟管理における自身のスキルアップに繋がったと感じています。また、東京大学医学部附属病院では初期研修中に外来診療を経験することはほとんどなく、風邪やインフルエンザ、腹痛、嘔吐、下痢など所謂commonな主訴で病院をwalk inで受診する方の初期診療を学べたことは非常に大きな経験となりました。特に、この時期特有ではありますが、インフルエンザ患者が多いことは印象的でした。平戸市はインフルエンザ発症率が全国でもトップレベルであり、今年は一時期過去最高の発生率だったことも重なって外来、入院患者を含め数多くインフルエンザ患者診療に携われました。
 平戸市は高齢化率も全国平均に比べて高く、老々介護の実態がより顕著に表れていました。80代、90代の方の妻、夫はもちろんのこと、娘、息子も6,70代であり超高齢社会を肌で感じました。今後介護保険の改定に伴い、より一層自宅で診ていくという流れになっていくと思われますが、実際の現場を見てみると中々に難しいことであると感じました。中野診療所所長の先生のお話では、実際に自宅でお看取りできたのは今まで一人だけだったとのことであり、それも娘が看護師であり、ある程度の医療知識を備えていたことによるものが大きかったそうです。
 印象に残っている担当症例として、多発褥瘡で入院してきた高齢の女性がいました。息子と二人暮らしの中、原因はおそらく脳梗塞だろうと思われますが突然左半身が動かなくなり、しかし経済的な理由で病院を受診することを拒み、自宅で寝たきりになりながら息子が介護していました。長期間同じ体制でいたことにより、身体は拘縮し、至る所に褥瘡ができ、そこからの感染で敗血症性ショック、栄養失調状態となっていました。このケースも介護者に少しでも褥瘡についての知識があれば予防、あるいはなんとか説得してでも早期に病院に連れてくることができたのではないかと思います。今後高齢化が進み、また介護保険制度改正に伴い在宅で診ていく方が増えていくということは、国民の誰もがより介護に関わっていくことになることと同義だと考えます。そのような状況で、介護をするときに気を付けなければいけない褥瘡や、誤嚥などの医学知識を持っていないことは危険なのではないかと感じます。そのため今後国民全体に教養として簡単な医学知識を教育する必要性があると考えさせられました。
 最後に、1カ月間という短い期間でしが、今回の地域医療では多岐にわたる様々な経験をすることができ、濃密な時間を過ごすことができました。将来どの分野、どのような場所で医師として働いていくにしても、今回の経験を生かせるよう邁進していきたいと思います。1カ月間ありがとうございました。
 今回の地域研修でお世話になった全ての方に感謝の意を表する。
永野渓舟