村松 寛惟 (社会福祉法人 恩賜財団済生会支部 静岡県済生会 静岡済生会総合病院)
村松 寛惟
社会福祉法人 恩賜財団済生会支部 静岡県済生会 静岡済生会総合病院
平成27年10月26日~平成27年11月24日
(医療法人医理会 柿添病院)

 私は10月下旬からの約1ヶ月間、平戸市中心部に位置する柿添病院の方で研修をさせていただきました。研修終了にあたってこの1ヶ月を振り返ってみると、予定外のことも含め、毎日本当にいろいろな経験をさせていただけたことにただただ感謝するばかりです。院内では多種多様な疾患を抱える入院患者さんを10数名ほど担当させていただきながら、日々の上部消化管内視鏡検査や腹部超音波検査、手術の第1助手など、数多くの診療に関わらせていただきました。院外でも附属中野診療所での通所リハビリや訪問診療、度島・的山大島への訪問リハビリ、平戸島内の保育所健診など、大変充実していました。救急外来の現場においては、挿管された橋出血の患者さんを、片道1時間近くかけて佐世保市立総合病院へと救急搬送した症例が非常に印象的でした。アンビューバッグで呼吸を補助しながら、いつ心室細動に陥ってもおかしくないような状況での搬送時間は、途方もなく長く感じられました。
 私はこれまで、大学病院のような高度先進医療機関では「狭く深い」医療が、プライマリ・ケアを中心とする地域医療では「広く浅い」医療が行われているものだ、と漠然と飲み込んでいました。それはある意味正しいと思いますが、実際に柿添病院での外来診療に携わっていると、思っていたよりも「広く深い」医療が求められているのではないかと感じました。柿添病院には、平戸島の南方から長い距離を車でやってくる患者さんや、離島から船に乗ってやってくる患者さんもいます。やっとの思いで病院にたどり着くそのような患者さんたちを前にして、疾患ごと病院を何ヶ所も渡り歩けとはとても言えませんし、ましてそのために都市部まで出なければならないとすれば彼らの日常生活が破綻してしまいます。つまり地域医療においては、ひとつの病院、あるいはひとりの医師に期待される内容が必然的に多くなっているように感じられました。ひとりの患者さんを文字通り頭から足先まで丹念に診て、かつ社会背景をも考慮し、場合によっては適切なタイミングで都市部の大病院に紹介する。それでいて日々進歩する医療に遅れをとらぬようついていき、患者さんのニーズに応える努力をし続ける。これは決して容易なことでなく、以上の事実をもって地域医療は「浅い」とはとても言いがたいのです。
 柿添病院では、上級医の先生方に見守られながらも、かなりの部分を未熟な私に任せて下さったと感じています。その中で、現時点で自分ひとりではできないこと、知らないことが本当に多いという事実を突きつけられました。一時的にでも自分がリーダーシップをとって対応しなければならない状況では強い緊張と不安を感じ、容体のなかなか改善しない患者さんのそばからは逃げてしまいそうになることもありました。それでもやはり、過度に悲観的になったり自暴自棄になったりすることなく、自分のできることとできないことを客観的に分析して省み、何とか自らを鼓舞しながら日々己を高めていくのが本物の医師のあるべき姿だと思います。都市部であっても地方であっても、そこには多かれ少なかれ病に苦しむ患者さんがいます。医師としての仕事の本質は、その時点で自分が持てる最大限の力で目の前にいる患者さんの手助けをし、本来の笑顔を取り戻してもらえるよう真摯に彼らと向き合うことにあると思います。これは時や場所を問わず不変のものだと信じていますし、自分の医師人生の中で一貫して持ち続けるべき心構えだと考えています。今回、医師として生きていく以上、生涯ついてまわるであろう上記のような問題と真正面から向き合い、どのような姿勢で診療にあたるべきかといった自分のスタンスを確認することができたのは、それだけでも大きな収穫でした。なお、経験を積むことによって自分ひとりで医療ができるようになるという意図は全くありません。医療スタッフは常に他職種連携の中にあり、患者さんの幸せのためには周りのスタッフの皆様方の協力が不可欠だということも決して忘れてはならないことです。
 最後になりましたが、柿添圭嗣院長、柿添博史副院長をはじめ、非常に充実した研修プログラムを用意して下さった柿添三郎診療部長と柿添由美子先生、諸先生方、スタッフの皆様方、そして平戸で出会ったすべての人たちに対し、心より感謝申し上げます。このような何事にも代えがたい貴重な経験をさせていただけたのは、ひとえに皆様のおかげです。1ヶ月間、本当にありがとうございました。
村松寛惟