牧内 泰文 (東京大学医学部附属病院)
牧内 泰文
東京大学医学部附属病院
平成29年8月1日~平成29年8月31日
(医療法人医理会 柿添病院)

 地域医療研修として長崎県平戸市にある柿添病院という病院で研修医という立場で研修をしました。病棟業務、外来業務だけでなく、健康診断、乳児健診、検案、留置所検診、訪問リハビリテーションなど、初めて経験するものも多く、大変貴重な経験をさせていただきました。
 入院患者さんで担当した症例は、喘息発作や市中肺炎などの内科的疾患から動静脈シャント造設術やS状結腸癌に対する内視鏡的S状結腸切除術施行例などの外科的疾患までとても幅広いものでした。担当させていただいた中で特に印象に残った症例を提示いたします。
【症例】91歳 男性
【現病歴】8月X日37度台の発熱および食欲不振を認めたため家族につれられ来院。
【既往歴】認知症、高血圧
【診断】
#1. Enterococcus faecalis菌血症 due to 肺炎 or 尿路感染症
#2. 低カリウム血症 due to 偽アルドステロン症の疑い
#3. 尿閉の疑い
【経過】画像所見から肺炎、尿検査から尿路感染症が疑われABPC/SBT点滴投与で加療開始した。血液培養からEnterococcus faecalisを検出し菌血症として加療しその後感染症は改善した。また来院時から低カリウム血症を認め、漢方による偽アルドステロン症を疑い、甘草を含む漢方を中止し、内服、点滴で血清カリウム値を補正し改善した。また入院後自尿を認めず、尿閉と判断し膀胱留置カテーテルを留置し、泌尿器科を受診し内服薬を開始され、今後抜去を図っている。全身状態は改善したが、もともとの認知症に加え入院に伴う廃用でADLが低下し自宅退院は困難と判断し今後施設への入居を目指している。
 本症例が印象深かった理由のひとつはプロブレムが多く、病態の把握が困難であったことです。活動性感染症に加えて電解質異常、酸塩基異常が合併し、内科的全身管理、治療に併せて診断的検査も同時に行うなど工夫が必要で、1ヶ月の研修で最も時間をかけ、勉強にもなったからです。ふたつ目の理由としては本症例の感染症、電解質異常が改善し、医学的プロブレムが改善した段階で、「では退院」ではなく、本人の状態、家族の状態、家族の介護の負担などを考慮し施設への入所の方針となり入院が長引いた点です。患者さんの病気だけを治すのではなく、患者さんの背景を深く理解し、方針を立てる。当たり前のようにも聞こえますが、これこそ「地域医療」だと肌で実感しました。
 「地域医療」とはその「地域」の特性、文化、歴史、そしてその「地域」に住む人々のことをよく理解し、その「地域」に必要とされる医療を提供することである。この1ヶ月で見て聞いて学んだ中で、「地域医療」とはそういうものだと考えるようになりました。この1ヶ月で学んだことを今後の医師人生で活かしていけるよう、今後とも精進いたします。ありがとうございました。
牧内泰文