久保田 努 (社会福祉法人 恩賜財団済生会支部 静岡県済生会 静岡済生会総合病院)
久保田 努
社会福祉法人 恩賜財団済生会支部 静岡県済生会 静岡済生会総合病院
平成28年6月6日~平成28年7月1日
(社会医療法人青洲会 青洲会病院)

 地域研修の一環でこの度、本州最西端の長崎県平戸市にある青洲会病院で1カ月間研修させて頂きました。
 毎日日替わりで、検査部や透析室、薬剤部をはじめとする各部門での研修、日中の専門外来・入院患者病棟管理、離島での訪問診療と離島への訪問リハビリなど多岐にわたる研修でした。どの部門の方も、お忙しいにも関わらず丁寧に説明してくださり、大変勉強になり、有意義な時間を過ごせたと思います。各部門の垣根の低さや話しやすい雰囲気があるのは中規模病院の良さだと思いました。
 病棟では末期癌(肺原発、多発メタ)のターミナルの方や脳幹部出血から寝たきりとなり、肺炎を合併した患者さん等数人を受け持たせて頂きました。今在籍している研修病院では末期癌患者を経験したことがなく、癌性疼痛のコントロール法や、鎮痛剤による副作用、副作用に対する薬剤の使用について、最初はカルテの使い方や検査オーダーの仕方など分からない事が多すぎて戸惑うことも多かったですが、最終的には非常に勉強になりました。
 肺炎の患者さんは、全く動けない故に膿性痰がなかなか自己排出できず、気道内に痰が貯留し、肺炎が収まらない悪循環に陥ってしまいました。そのため頻回に看護師さんや医師で吸引したり、抗生剤を色々切り替えながら加療したもののなかなか発熱がおさまらず、また採血データ上も良くならず、植田先生とともに悪戦苦闘したことが今となっては苦い思い出ですがいい経験でした。研修病院では青洲会病院のように自分一人で入院患者の方針を決定する機会は少なく主治医として患者さんが、どうしたらより良い生活が送れるようになるか考える機会が多く経験出来ました。
 外来や離島診療では、降圧剤などの定期処方や感冒や、軽症外傷が等が多い中で、不定愁訴を訴える患者さんも少なくありません。その中で、緊急性のある疾患を検査等に出来るだけ頼らず、詳細な問診と病態の評価をする能力が都市部での病院以上に必要とされます。
 幅広い知識と診察技術を有していることの重要性を感じました。こういった背景があるため、地域医療を担う医師こそ正確な知識を持って、患者にとって最良の選択ができるようマネジメントできる能力が必要だと思いました。 
 研修病院では、急性期治療を終えた患者は長期管理が可能な病院に紹介することが多く、患者のその後を見ることがほとんどありませんでした。今回の研修で、治療を継続しながら自宅退院を目指してリハビリを頑張る方、生まれ育った島で暮らすため、また仕事に従事するため自宅でリハビリを継続し、診療を受ける方の姿を目にすることができました。 
 このような方々の努力もさることながら、患者一人一人の思いに沿うよう努力する医師、看護師やPT、OTを始めとするコメディカルの皆さんのプロフェッショナリズムに大変感銘を受けました。私はこれまで各患者さんの疾患に対し、いかに治癒にもっていくかなど治療に主眼を置いてきましたが、この地域研修を通し、患者さんそれぞれの社会的背景や今後どうしたいかなどしっかり頭に入れ医療をしなくてはいけないなと改めて思いました。 
 患者さん一人ひとりの今後の着地点や目標としているものが違うことに気が付きました。
 着眼点を見出すことはなかなか難しいことですが、それこそ医療の難しさや面白み、醍醐味であると思います。同時に、医療のプロフェッショナルとして恥じない自分でありたいと強く思いました。
 医師としての仕事の本質は、その時点で自分が持てる最大限の力で目の前にいる患者さんの手助けをし、本来の笑顔を取り戻してもらえるよう真摯に彼らと向き合うことにあると思います。これは時や場所を問わず不変であると思いますし、自分の医師人生の中で一貫して持ち続ける心構えだと考えます。今回、医師として生きていく以上、生涯ついてまわるであろう上記のような様々な問題と真正面から向き合い、どのような姿勢で診療にあたるべきかといった自分のスタンスを確認することができたのは、それだけでも大きな収穫でした。
 院外でも、毎日のように色々な方が飲みに連れて行って下さり、院内バレーボール部にも参加させていただきとても楽しかったです。平日ほぼ毎日平戸のお酒や美味しい魚、平戸牛やびっくりするような珍味など思う存分食べられ、休日には平戸市内のみならず長崎市内まで出向き、有名スポットを多く観光でき、今回の研修はいい思い出しかありません。
 今回の研修を通し、将来、初期研修終了後には内科で専門性をある程度極めて公私ともに落ち着いてから何らかの形で地元の地域医療ないしは、離島・へき地医療に関わっていきたいと強く思うようになりました。これから医師として生きていく上で重要なことを学ぶことができた1ヶ月だったと思います。最後になりますが、植田先生や常光院長先生を筆頭に事務の後藤さんやコメディカルの方々など多くの人達に支えられ、協力のもと良い研修期間を私達は過ごせました。平戸で出会った全ての方に心より感謝申し上げます。短い間でしたが本当にありがとうございました。
久保田努