平川 恵理 (東京大学医学部附属病院)
平川 恵理
東京大学医学部附属病院
令和2年1月6日~令和2年1月31日
(平戸市立生月病院)

 令和初めての新年が明け、福岡にある実家から生月へ向かいました。九州本土から平戸大橋を渡り、平戸の山々を超え生月大橋を渡り、ようやく生月島に辿り着きました。生月病院は、そこからさらに車で10分、小高い丘を登ったところにありました。病院に着くとスタッフの方が温かく迎えてくださり、不安な気持ちが和らいだのを覚えています。
 研修が始まってからは様々な経験をさせていただきました。初診外来では、高齢者のめまいや脱力感などはっきりしない症状が多いため、病歴をしっかり聞き、身体診察をより丁寧に行うよう心がけました。地域医療では、common diseaseから高度な専門性を有する疾患まで、また軽症から重症まで様々な疾患をもった患者を診療する必要があり、幅広い分野の診察能力が求められました。医師である以上、自分の専門分野以外にも幅広い知識とスキルを身につける必要があると痛感しました。
 外来見学では、先生方が患者の既往歴から家族構成までバックグラウンドを把握していることに驚きました。先生方は、患者の小さな変化も見逃さないように気を配り、常に患者に寄り添った医療を行っていました。患者の中には顔なじみの主治医と会ってお話しするのを楽しみにしている方も多く、診察中は冗談も飛び交いアットホームな雰囲気でした。地域に根ざした医療とは、長きにわたり築いたこのような堅固な信頼関係に基づくものだと思いました。都市部では日々の忙しさの中でつい病気ばかり診がちですが、今後は患者を取り巻く環境まで気を配り、より真摯に患者と向き合って医療を行っていきたいです。
 訪問診療では、100歳の父親を70代の娘がひとりで介護しており、外からは見えにくい家の中で介護者が精神的にも身体的にも追い詰められている姿を目の当たりにしました。高齢化と核家族化が進んだ現代社会で老老介護問題は想像以上に深刻でした。介護者の精神的、身体的ストレスを軽減するためには、訪問介護やデイサービスなどの在宅介護サービスの情報を提供していくことが必要不可欠だと思いました。また、一人ひとりの患者のニーズに合わせて適切なサービスを提供できるよう、患者本人や家族の多種多様な社会的背景をしっかりと把握すると同時に他職種の役割を把握することも大切だと思いました。
 1か月間という短い期間ではありましたが、医学的知識や技術だけでなく、これから医師として歩んでいく上で大切な思いやりの心を教えていただきました。今回の地域医療研修で学んだことを糧に幅広い視野を持った医師へ成長できるよう今後も研鑽を積んで参ります。
 最後に、都会の喧騒を離れ、美しい緑の山々と青く透き通る海に心から癒された1ヶ月間となりました。至らぬ点も多かったにも関わらず優しく丁寧にご指導いただいた先生方、スタッフの皆様はじめ、今回の研修でお世話になりましたすべての皆様に心より感謝申し上げます。
平川恵理