樋口 雅樹 (社会福祉法人 恩賜財団済生会支部 静岡県済生会 静岡済生会総合病院)
樋口 雅樹
社会福祉法人 恩賜財団済生会支部 静岡県済生会 静岡済生会総合病院
平成27年11月30日~平成27年12月25日
(社会医療法人青洲会 青洲会病院)

 私は、元々へき地医療に興味があり、6年生の時にも秋田県・隠岐の島・五島列島で実習しましたが、研修医になった本年は見るポイントが深まり、へき地での過酷さと遣り甲斐をより体感致しました。普段の研修先の病院と様々な点で異なる医療を…。
 1番感じた事は、医療者と患者・家族の距離感が近く、信頼関係が深い事です。医師も患者も少なく、お互いを知り、お互いを大切にされています。地域柄患者の多くは高齢者で、医師だけでなく、看護師・リハビリ師・介護士・栄養士などTeamで介入し、患者のQOL上昇に貢献していく…その事に凄く心地よさを感じました。
 植田院長からも「医療は目的ではなく手段」という言葉を頂きました。医師になり、急性期病院で必死に働く内に大切な事を忘れていました。それは、病気ばかりを診て、人を看ていない事です。母校の「病気を診ずして病人を診よ」を深く思い出される事となりました。我々の医療人の目的は病気を治すだけではなく、患者や家族に寄り添い、生活しやすいように手助けをする事です。その為、病気を治す事のみに視野を狭めて100%力を注ぐのではなく、患者背景・生活環境なども考慮し、プランニングを行う事の大切さを実感いたしました。特に離島の患者さんは、青洲会への来院に1時間以上かかり、佐世保へはさらにまた1時間かかります。そのため、離島の診療所・田平の病院・佐世保の市中病院の役割分担の認識が非常に大切になります。
 平戸市は住民が減り続ける中、「この土地を愛し、先祖代々の文化継承に努められる住民のお役に立ちたい」と遣り甲斐を深く感じる一方で、1人で孤立しては続かない…従って、体制維持のためにTeam一丸になる。「人との繋がり」の大切さを感じました。同じ職種に複数のスタッフが居り孤独感を感じさせず、他の職種でも助け合う事で業務遂行がスムーズな気がいたしました。また、地方共通の問題である、産業の低迷と共に仕事が見つからず若者の流出が避けられない事への危機感を多くのスタッフがお持ちでした。その為の案や対策、行政との連携も図られておりました。例えば、漁業や農業のノウハウはあるけれど伝える機会のない高齢者と、働き口の無い若年者を集め、漁港や畑で高齢者から指導を受ける場所を作る、そこにデイケアなども併設する事で、そこにきっと高齢者が生き甲斐を見出して集まる案がありました。私は、病院スタッフがまちづくりを考えておられる事にとても驚きました。皆様の平戸への関心や愛情の深さを垣間見る事が出来ました。また、市営の度島や的山大島の診療所には、常勤医が各々居られました。しかし、離島は特に1人で孤立されては次へ続かないと思い、行政が常勤医を誘致するのみならず、その仕組みが後継者へも継続できるよう週に数回輪番制の導入などを検討しても良いのではと感じました。
 私は、都市部の大学病院のような高度先進医療機関では「狭く深い」医療、プライマリ・ケアを中心とする地域医療は「広く浅い」医療、とこれまで思っておりました。しかしそれは、間違いでした。地域医療は実は「広く深い」!自分の専門外だからと、目の前の患者から目を背ける事は出来ません。特に離島への出張時は、医師は1人しかおらず、他のDrにコンサルテーションは出来ません。そんな時も全身状態や丁寧な問診・診察、コメディカルの情報や普段から一緒にいる家族から情報を得て、医師自らが判断します。その判断により、患者の予後の良し悪しが決まります。即ち、医師が少ないため、強い緊張感の中で判断の責任の重さを感じ、同時に遣り甲斐も感じます。そして何より、患者の主治医として外来や入院などで、お一人お一人を一生涯継続して診られる事の充足感が非常に大きなものだという気が致しました。
 また、重症急性期患者の治療は平戸地区ではできない為、佐世保地区の病院へ転院搬送が必要になります。搬送が車で1時間近くかかり勿論大変であり、その煩雑さゆえに拒否される方もおられますが、予測される予後に違いがある場合や緊急性を要する場合にはもう1度転院搬送の必要性を説明し、説得を試みる大切さも感じました。それでも拒否される場合は、勿論患者や家族の御意思も大切にします。
 この1ヶ月で平戸を出来る限り理解する為に以下3つの事を少し勉強させて頂きました。平戸の住民や町の雰囲気や大きさ、青洲会病院の役割、佐世保や福岡からの距離感などです。まず、時間に追われてセカセカし、体が接触する満員電車等でイライラしている都市人と異なり、平戸人は温かく時間がゆっくりしているように感じました。度島や的山大島の住民がフェリーで平戸市街地まで1時間超かかるのみならず、平戸島は大きく端から端も車で1時間超かかる広い市でした。しかし、スーパーや飲食店は少ない為、他人に会いたい時はいいのですが、会いたくない時にも遭遇する確率が高い印象を受けました。次に青洲会の役割は、高齢者が多い地域柄、病気を治せば終わりではなく、退院後の生活にコメディカルを含めTeamで介入していく事です。それにより、患者さんの生き甲斐を取り戻す手助けをしていきます。都市部までの距離は、佐世保まで車で45分orバスで90分、博多まで車で2時間orバス等で4時間かかりました。
 青洲会病院での研修開始前日にHPで拝見した「いつでも、どこでも、誰にでも医療を」という理念は、1か月の研修を終え、その実践に多大な力を必要とし、言葉の重みを深く体感いたしました。
 医師の初心、この1ヶ月学んだ事、母校と同じ「Fish哲学」を一生忘れず日々精進して参ります。植田保子院長をはじめ、各施設の皆様、患者さんや家族など、お忙しい所お時間を割いて下さり、とてもとても温かく親切にして下さり、誠に有り難うございました。
樋口雅樹