古澤 樹 (東京大学医学部附属病院)
古澤 樹
東京大学医学部附属病院
令和元年10月1日~令和元年10月31日
(平戸市立生月病院)

 この度は平戸市立生月病院で1ヶ月間の地域医療研修の機会をいただきましたので、地域医療研修の感想を述べさせていただきます。
 この地域医療研修先が決定するまで、恥ずかしながら生月島の名前さえも知りませんでしたが、埼玉県北部のベッドタウン(田園風景広がる田舎)で育ち、幼少期から自然に囲まれた地域には抵抗はなかったので、島での生活に不安はありませんでした。実際、風光明媚な土地で、温かい先生方、看護師さん、患者さんに助けられながら1ヶ月間充実した研修生活を送ることができました。
 長崎空港に降り立ち、バスを乗り継ぐこと約4時間、ようやく生月病院へたどり着いた時、まず目に飛び込んだのは高台に位置する生月病院から望む海でした。特に3階の出窓からは病院にいることを忘れさせる最高の眺望ですので、ぜひ一度ご覧になることをお勧めします。また、夜9時には人気がなく暗闇に包まれる生月島ですが、ふと夜空を見上げた時に目に飛び込む満天の星空に魅了され、イノシシの襲撃に警戒しながら、夜空の撮影を行ったのもよい思い出です。
 少し脱線してしまいましたので、研修に関する話に戻します。
 山下院長から、かつては捕鯨で栄え一時は人口1万人を超えた生月島ですが、今では人口5000人、高齢化率45%と人口減少、高齢化の最先端をいっているとお聞きし、実際に診察する患者たちも80-90代が中心で、疾患をコントロールし、いかに自宅や施設で自立した生活を送るかに主眼が置かれた医療でした。外来、老人ホームでの回診、往診、健診業務等を通して、地域を支える病院の役割を垣間見ることができました。
 そういった研修を通して、地域医療と都市部の医療との最大の相違点は、医療関係者が患者背景を熟知している点にあると私は思いました。医師、看護師が患者の疾患だけではなく、家族構成、生活環境を熟知しており、キーパーソンや生活歴を改めて患者から聞く必要がないことは都市圏ではもちろんありえませんし、平戸市と雖もこれが通用するのは生月病院だけでないでしょうか。都市部にはない「離島ならでは」の、濃密な関係に基づいた医療は新鮮であり、患者からの医療従事者に対する無条件な信頼は、それと同時に医療従事者としてその信頼に応えなくてはならない責任感を強く感じさせるものでした。患者から評価・選択される都会の医療では感じ得ない信頼感の中で行う医療の心地よさを知ってしまった今、またいつかこの街が歓迎してくれるのであれば、また戻ってくることも一つの選択肢として今後の医師生活を送っていきたいと考えるに至りました。
 最後になりますが、改めまして生月病院のみなさま、ながさき県北地域医療教育コンソーシアムに携わるみなさま、1ヶ月間大変お世話になりました。
古澤 樹